瞬間移動死体

小さいころから怠けることばかり考えて、何をするにも面倒くさくて縦のものを横にもしない男中島和義は、テレポート能力の持ち主だった。ところがこのテレポートがいかにも中途半端なものだった。
まずテレポートするにはアルコールがいる。アルコールを入れて移動先を念じればテレポートされるのだが、同時にアルコールは蒸発してしまう。つまり戻ってくるためにはまたアルコールがいるわけだ。
したがって移動先ではアルコールが確保されなければならないが、もっと問題なのは和義がアルコールを飲めない体質であることだった。
そのためにテレポートするためには和義は死ぬほどの苦しみを味あわなければならなかった。次に移動できるのは体だけだった。これは文字通りの体だけで、持ち物はおろか着ている服もテレポートされない。
ということは移動先には常に全裸で出現することになる。最後に例えばA地点からB地点にテレポートしたとすると、本来B地点にあったものが何か一つ入れ替わりにA地点に移動するのだ。
この何かというのが全く分からない。ベッドや家具のような大型のものの場合もあるし、ごく小さな物の場合もある。しかも逆にB地点からA地点に戻ったときに今度B地点に戻るのが同じものとは限らない。
つまり単純な交換ではないのだ。これらの点から和義のテレポートは超能力と呼ぶよりは特異体質といった方がより近かった。だから和義はこの能力があることを秘していたし、積極的に使うこともなかった。

さて和義には景子という妻がいて、流行作家であった。和義は無職、早い話が妻の収入で生活していた。和義と景子は学生時代から付き合っていて、景子が流行作家になったのも、学生時代に和義がそそのかして懸賞小説に応募して第一席に入選したのがきっかけだった。
その後、景子は美人学生作家とおだてられ、あれよあれよという間に流行作家になり、その間に和義と結婚した。怠けものの和義は妻の収入で何もせずに暮らせることで満足するような男だった。
一方景子の方は何も考えない直情径行型の女であった。流行作家になるとロスに家を買い、東京とロスの間を行き来していた。
ロスに家を買ったのも流行作家として海外に住むのは当たり前だという、わけのわからない理由によるものだった。しかもロスには秘書兼愛人と称して波多野尚輝という男を置いていた。
そのくせ和義の浮気は許さなかった。稼いでいるからという理由で景子は和義に対して上位をもって臨んだが、和義の方もそれを唯々諾々と受け入れた。
これは夫婦の間の問題であるが、景子にはサドの、和義にはマゾの本能があり、お互いこれがうまくかみ合っていたから、2人の間に大きな問題は起きなかった。
それが景子が言ったたった一言が原因で、和義が殺意をうんだ。一度火が付くとどうしようもなくなり、和義はテレポート能力を利用してロスにいる景子を殺そうとした。
アルコールや服、ほかの物が移動してしまう問題を苦心してクリアし、東京のマンションからロスにテレポートした和義だったが、そこでは思ってもみなかった手違いがあった。
早朝のはずなのに秘書の波多野が起きており、しかも女を引きいれていたのだ。これでは殺人は実行できない。あきらめて再び東京にテレポートした和義だったが、数時間後に景子から驚愕の電話が入った。
ロスの家のクローゼットから外人の全裸男の刺殺死体が転がり出たというのだ。ロスの家のクローゼットとは和義がテレポートの際に使った場所だった。

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