幻惑密室

健康器具開発会社ゲンキ・クリエイトの超ワンマン社長稲毛孝が、どういう風の吹きまわしか4人の社員を自宅に呼んで新年会を催した。
その日、1月3日は孝の妻の牧子は友人と外出、娘の史恵も同窓会で自宅にいなかったが、孝が妻と娘を追いだしたか、あるいは妻と娘が留守の日を選んで日取りを設定したという感じであった。
さらに不思議なのは新年会に招かれたメンバーであった。社長秘書古明地友美、受付嬢山部千絵、営業の岡松治夫、総務の羽原譲の4人であったが、古明地と山部は稲毛の愛人であり、そのことは公然の秘密であった。
本人同士もライバル意識むき出しであったが、最近は月々の手当が遅れたり減らされたりして、稲毛の寵愛が薄れ気味であり、2人とも内心焦りがあった。
特に山部の方は金が目的であり、金の切れ目が縁の切れ目と考えていたが、山部自身も浮気をしていて後ろめたい部分があったし、何より古明地に負けることが許せなかった。
一方、古明地の方は山部と違って純粋に稲毛を愛する気持ちがあったのだが、金が一銭でも多く必要な事情があった。
女性2人に対して男の社員2人は、どちらもダメ社員で、岡松は営業成績はまったく上がらないお荷物だったし、羽原の方は能天気で社会常識が一切欠如したおバカ社員だった。
それに岡松はひょんなことから稲毛の妻牧子と不倫の関係にあったし、羽原は学生時代にナンパして史恵をひっかけて肉体関係を結んだいた。
古明地と山部の2人は新年会は口実で稲毛から絶縁を申し渡されるかもしれないと考えていたし、岡松も牧子との不倫がバレてクビになるのではないかと恐れていた。
ただ、能天気な羽原だけは、社長は娘史恵と羽原のかつての関係を知ってそれを受け入れ、2人の婚約を発表する場として新年会を企画したのだと勝手に妄想していた。

何ともいえない雰囲気の中、4人は居心地悪る座り、社長の稲毛だけがなぜか上機嫌で饒舌であったが、いつまでたっても酒も料理も出てこなかった。
稲毛もやっとそれに気づいたようで、秘書の古明地におせち料理を頼んである仕出屋に電話をするように命じて、自分も一緒に席を立っていったが、しばらくして電話が通じないと言って稲毛だけが戻ってきた。
稲毛によれば、古明地に直接仕出し屋に出向くように命じたというのだ。しかし、その古明地もすぐに戻ってきた。そして家から出られないとヒステリーを起こして喚いた。
結局、古明地の言ったことは本当だった。家から出られないのだ。いや本人は外に出ているつもりだが、ふと気付くとUターンして家に戻っているのだ。誰がやっても同じだった。
何かの怪奇現象か超能力か、あるいはミステリスポットか、故意か偶然かはともかく誰一人稲毛家を出られなくなってしまったのだ。
一時はパニックになったが、やがて落ち着きそれぞれにいろいろなことを試したりするが、電話も通じず時間だけが過ぎていく。やがて悲鳴があがった。古明地が稲毛の死体を見つけたのだ。
稲毛は頭を鈍器で殴られ、首をネクタイで絞められて殺されていた。だが、外部への連絡方法はない。すると犯人は…
この不思議な事件の真相究明にあたることになったのが、超能力者問題秘密対策委員会出張相談人神麻嗣子だった。

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