鬼蟻村マジック

長野県北部、黒姫山と妙高山の間にある鬼蟻村には、三匹の鬼が落ち延びてきて住みつき、人間に化けて村を開いたところとの言い伝えがあった。
その村で、酒造業を営む上鬼頭家は、村では絶対的な存在であった。村のほとんどの土地は上鬼頭のものであり、その当主の意向は村の決定そのものであった。
今、その村は上鬼頭の当主の座を巡って揺れていた。上鬼頭を牛耳っているのは、鬼の三姉妹と呼ばれる上鬼頭家の長女加世子であった。加世子は先代当主新太郎の腹違いの姉だった。
新太郎は跡継ぎを設けぬまま、熊に襲われて急死したのだが、新太郎の妾がその後に男の子を産んだ。これが国也で、その時はまだ生きていた新太郎や加世子の父で新太郎の前の当主の徳之輔が、国也を上鬼頭の次の当主と決めたのだった。
上鬼頭徳之輔の決定は絶対だったからだれも反対できず、幼い国也が成長するまで当主代行を加世子が勤め、新太郎の未亡人静子がこれを補佐した。その後徳之輔が死去すると上鬼頭の当主を巡って争いが起きた。
加世子には2人の妹がいた。加世子は独身であったが、妹2人は結婚していた。すぐ下の妹は美佳子といい夫の清吉は鬼舞酒造の営業責任者だった。末の妹は佐江子といい夫の五助は酒造りの責任者だった。
加世子、美佳子、佐江子の3人は徳之輔が妾に生ませた子で、すべて母親が違っていたし、性格が全く違い昔から仲が悪かった。それに徳之輔の正妻から生まれた新太郎の妹志女子がいた。
志女子は嫁いだものの離婚をし、子供の薫子を連れて出戻ってきた。今、上鬼頭家には加世子・静子・国也、美佳子一家、佐江子一家、志女子と薫子という4つの小家族が同居し、互いにいがみ合っていたのだった。
現在、国也は加世子の後見を受けて順調に育っているものの、美佳子や佐江子は国也の後継を認めていなかったのだ。美佳子と佐江子も仲が悪く、3人は始終いがみ合って暮らしていた。
その上鬼頭の家に、事件を予告する御札が現れたという。佐江子の娘でアンタレス旅行社に勤める竹美は、名探偵の名が高い同僚の水乃サトルに話を持ちかけ、鬼蟻村につれ出し、事件を防ごうとした。
しかし事件は防げなかった。朝食の席で国也と加世子が毒殺されたのだった。さらに上鬼頭家には昭和13年に凄惨な事件が起きていた。鬼に化けた何者かが乱入して、宴席にいた陸軍軍人の首を日本刀で跳ね、その後密室に逃げ込んだものの、そこから忽然と消えてしまったのだ。

島田荘司と新本格作家のメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -