稀覯人の不思議

手塚治虫愛好会・東京本部、通称では大都会の二代目会長星城明人が自宅の離れで殺された。明人は子供のころにいじめにあって引き籠りとなり、学校にはほとんど往っていなかったが、手塚治虫のマンガと出会い、熱中し、愛好会にも入り、全国的にも有名なマニアとなった。
自宅の離れには手塚治虫の貴重なマンガや文献、セル画などがきちんと整理されて納められ、特に貴重なものは耐火金庫に入れられていた。祖父からの遺産もあって明人は金には困っておらず、また小まめに古書店や古書展を巡っているから知己も多く、それがさらに明人のコレクションを充実させていた。
とはいえ明人はマニア根性丸出しの性格ではなく、大都会の会員にも優しく接し、手に入れた貴重なマンガも月1回のミーティングに持参して、会員たちに回覧した。その態度も決して自慢げではなく、ごく自然であったので、会員たちからも慕われていた。
その明人が何者かに鈍器で殴られたうえ、首吊りを装って自宅の離れで殺されたのだ。当初は自殺と思われたが、不自然な点があり、警察は他殺として捜査を開始した。鈍器もブラックジャックであり、ほとんど痕跡はなく、自殺として処理されれば見逃されるようなものだった。犯人が自殺に見せかけようとしたのは明らかだった。
現場は密室で、出入り可能な窓には内側からクレセント錠が掛り、ガムテープで目張りまでしてあった。前を本棚でふさがれた、出入り不能の窓もあったが、鍵はかけられたうえ本棚が動かされた形跡もなかった。ドアには内側のポッチを押せば鍵が掛る式のもので、発見当時鍵は掛けられ、ドアに目張りをしていた跡もあった。
さらに離れがある自宅全体にも鍵が掛っていた。現場は二重の密室だったのだ。発見者は明人の両親で、その日は明人に水上温泉への旅行をプレゼントされ、夫婦そろって車で一泊旅行に出ていたのだった。帰ってきて異変を感じ、離れのドアを破って死体を発見したのだ。
さらに調べてみると、本棚や金庫の中から手塚治虫の稀覯本や稀少本が盗まれていた。のちにその本の一部は、大阪の古書店に持ち込まれて買い取られているのが発見されたが、星城殺しの犯人は手塚治虫マニアであると考えられた。当然大都会のメンバーにも疑いがかかるが、百のサークルに所属する男といわれる水乃サトルもその一員であった。


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