ラン迷宮

二階堂蘭子の推理傑作集。泥具根博士の悪夢はアンソロジーの密室殺人大百科への書下ろし、蘭の家の殺人は雑誌メフィスト掲載作+書下ろし、青い魔物は本作品集書下ろし。
泥具根博士の悪夢
超常現象研究家として知る人ぞ知る泥具根秋人博士の住まいは、青森県の十和田湖畔にあった。かつては天才科学者といわれ、多くの医学的発見をし、特許を多数取って、そこからの収入で一生かかっても使い切れないほどの財産を築いた博士だったが、愛妻の死をきっかけに偏屈で人嫌いになり、ついには超常現象に凝って、十和田湖畔の奥深くに隠棲し、めったに外へも出ずに超常現象の研究に明け暮れていた。
それでも博士には財産があったから、怪しげな霊能力者や超能力者、心霊術師に宗教家、魔術師に占い師などが代わる代わる訪れ、博士もそれらの人物の話に耳を傾けた。
さて事件は超能力者の冬木麻耶子とその兄の紫季男、彼ら2人の紹介者で宗教ゴロの嘉納源治郎がやって来たときに起きた。サイコキシネスを使って麻耶子が博士を殺害したのだ。
博士は裏庭に作られた霊応堂という不思議な建物の中で殺された。霊応堂は麻耶子のサイコキシネスの実証実験のためにわざわざ建てられたもので、入口がひとつあるほかは窓一つない正方形の建物だった。その正方形の建物の中には外側よりも少しずつ小さくなった別の正方形の部屋が3つ入っていた。
その四角い部屋は外側から第一界、第二界、第三界、第四界と呼ばれ、第四界は4m四方の大きさだった。それぞれにドアは一つずつついており、第一から順に北、東、南、西にあった。そのほかには機械室とトイレがあるだけだった。
博士は第四界で背中をナイフで刺されていた。そして第一から第四の全ての扉には内側から鍵がかけられていた。第一と第二の扉は分厚い樫で出来た扉で、さらに閂が掛けられており、鍵穴にはハンカチが内側から詰め込まれていた。
第三と第四の扉はスチール製で、さらに鉄板で補強がされ、内側から鍵穴をガムテープで塞いであった。そして雪の積もった霊応堂へは博士が向った足跡しか残っていなかった。つまり博士は五重の密室の中で殺されたのだった。

蘭の家の殺人
二階堂蘭子のもとに義理の兄弟二階堂黎人の妻の紀子の友人伊藤香織が相談があると訪ねてきた。香織の恋人賀来慎児のことだという。慎児は有名な画家だった賀来レオナとその夫人の里利子の子供で、両親は既になく、両親の莫大な遺産で洋蘭の研究と栽培をして暮らしていた。
慎児の莫大な財産は、里利子の妹である田口芙美子が管理をしていたが、最近慎児と芙美子のもとに脅迫状が送られてきたというのだ。それは12年前に起きた慎児の両親の死に関するものであるようだった。当時、慎児と両親は熱海の郊外にある蘭の家と呼ばれる西洋館に住んでいたが、慎児の両親の間では喧嘩が絶えなかったという。
喧嘩の原因はレオナの性癖にあった。レオナはモデルにしていた3人の女、女優の真世洲々子、モデルの石川千夏、バイオリン演奏者の立森栄美と関係を結び、妻の里利子を含めた4人がレオナの愛情と歓心の取り合いをしていた。それだけではなく、レオナは柴田恭介という男の弟子とも体の関係があった。

そしてレオナの家では、それらの愛憎渦巻く人たちが一堂に会するパーティが頻繁に開かれていたという。12年前のパーティのとき、レオナが食後のコーヒーを飲んで、そのまま死んだのだった。毒殺だったが、数々の証言からコーヒーには毒を入れる機会は誰にもなかった。またそのコーヒーに最初に口をつけたのは、レオナではなく息子の慎児だった。
レオナのコーヒーに当時まだ子供だった慎児が口をつけ、それを見たレオナが取り上げて、そのコーヒーを飲んだ。その直後慎児とレオナが苦しみだし、慎児は胃の内容物を吐き、のた打ち回った。レオナの苦しみは、ほんのわずかで、あっという間に死が訪れた。慎児の方は飲んだ量が少なかったのと、吐いたおかげで一命は取り留めた。
慎児の吐瀉物とコーヒーからは青酸カリが検出されたのだ。警察はレオナの死を自殺とした。そして数日後に、今度は里利子が青酸カリを飲んで自殺したのだった。里利子は妹の芙美子に「夫を殺したのは自分だ」と電話をし、蘭の家にある温室の一室で死んでいた。
芙美子はすぐに蘭の家に駆け付け、そこにいた美術評論家の帯刀に助けを求め、2人で温室に向かった。だが温室の中の里利が倒れている部屋は中から鍵が掛けれており、開かなかった。そこで帯刀がガラスを割って中に入り、里利子の死を確認したというのだ。この事件も世間には伏せられた。
そして今回、12年前の事件の真相をネタにした脅迫状が慎児と芙美子のもとに舞い込んだという。そして芙美子の提案でレオナ夫妻の13回忌が蘭の家で行われ、当時の関係者が集合するという。蘭子と黎人もその13回忌に出席し、事件の真相を調べることになったのだった。

青い魔物
新聞に目を通した二階堂蘭子が興味を持ったのは、鎌倉で起きた野犬による事件。最近鎌倉では野犬が多く棲みつき、3日前に白人男性2人が野犬に食い殺されたというのだった。
なぜ蘭子がこんな事件に興味を持ったのかはわからなかったが、一方そのころ鎌倉では、青い魔物による事件が起きていた。永遠の生命を研究する両尾徳丸博士の研究所で、博士が面倒を見ている兄妹が青い魔物に襲われたのだった。
その兄妹は山梨健太郎と小百合といい、施設で育てられていたが、遠縁にあたるという両尾博士に引き取られていた。近頃とみに博士の様子がおかしくなり、肌は青くなり、性格も変わってしまってやたら怒りっぽくなった。そして青い魔物のような顔つきになってしまった両尾博士は、ついに小百合を襲ったのだという。
山梨兄妹は必死で逃げ、鎌倉警察署に駆け込んだが、ちょうどそこに二階堂蘭子たちが居合わせた。蘭子たちは白人の事件で鎌倉に来ていたのだったが、白人2人は腹を切り裂かれたうえ、胃をえぐり取られていると聞いて事件現場に行こうとしていたのだった。
白人の事件は野犬の仕業ではなく、あくまで人間が起こしたもので、野犬の仕業としたのは警察がわざとそう発表したものだった。蘭子は山梨兄妹から事件の話を聞くと、警察とともに両尾博士の研究所に向かった。


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