私が捜した少年

渋柿信介、6歳の幼稚園児が探偵として難事件を解決していく、ハードボイルドタッチの短篇集。
私が捜した少年
仲間をナイフで刺し殺した麻薬の売人小野寺勝正は、犯行後すぐに愛人の相沢恭子のもとへ逃げ込んだ。相沢恭子は女子大生で、学生寮に住んでいた。実は小野寺は麻薬の売人として指名手配寸前で、その学生寮は小野寺が逃げ込む恐れがあるということで、24時間張り込みが行われ、警察の監視下にあった。
言ってみれば小野寺は、自ら警察に飛び込んだようなものだったのだが、事はそう簡単には運ばなかった。女子大の寮は1階が5部屋でうち1つが管理人室、2階が6部屋あった。1部屋は空き部屋だから、9部屋に学生が住んできた。相沢恭子の部屋は2階の一番端にあった。
相沢恭子の部屋にすぐわきに非常階段があり、普段は施錠されていたが、小野寺は予め相沢恭子に連絡を取っていたらしく、非常階段を使って相沢恭子の部屋に入った。それから一週間、監視は常時休むことなく行われ、小野寺は部屋から出てこなかった。
そしてその朝、9人の女子大生は次々と寮を後にし、その後警察が踏み込んだ。だが相沢恭子の部屋をはじめ、どこの部屋にも小野寺の影も形もなかった。確かに寮の中にいるはずの小野寺は、どこかに消えてしまったのだ。

アリバイのア
不動産会社の社員だった大鹿麻呂夫が、工事現場で頭を強打されて殺されているのが見つかった。動機の点から犯人は漫画評論家黒猫みゆきと思われた。大鹿は黒猫みゆきの土地を勝手に売買して、金を着服していたのだ。それが発覚したのが、大鹿が会社を辞めたあとだったために、みゆきは大鹿に金の返済を強硬に迫っていた。
その結果、みゆきは大鹿の妻幸子と共謀して、大鹿を殺して保険金を詐取しようと計画した。実行役はみゆきで、得られた保険金から大鹿が横領した金と殺人手数料がみゆきに支払われることになっていた。このことは幸子の自供から明らかになった。
ところがみゆきは平然としてアリバイを主張した。殺害時刻には、マンションの部屋で遅れていた原稿を書いていたというのだ。証人は出版社の編集者。隣の部屋で原稿をチェックしており、みゆきは部屋を出て行ってからきっかり29分後に戻ってきて、書き上げた5枚の原稿を編集者に渡したというのだ。
29分間というのは、ちょうど掛けられていたクラシックのレコードの演奏時間だった。みゆきはレコードがかかると同時に隣室へ行って原稿を書き始め、レコードが終わった時間に出てきた。それが事実だとすれば、みゆきに犯行は不可能だった。みゆきのマンションから現場までは、どう急いでも往復35分かかるのだった。

キリタンポ村から消えた男
渋柿信介の父親で三多摩署刑事のケン一が追っていうのは、山下岩太郎という殺人犯だった。岩太郎は暴力団関係者で、フィリピンで芸能エージェントと称して人身売買をしていたが、仲間割れを起こして志村という男を殺して逃走したのだ。だが、困ったことに誰も岩太郎の顔を知らなかった。
岩太郎は意識して人前に出ないようにしていたし、人と会う時も極力顔をさらさないようにしていた。誰に聞いてもはっきりした顔は分からず、若いというだけで年齢もはっきりしなかった。写真もなく、ようやくフィリピンで現地の女性と撮ったものが見つかった。
その写真だけを手掛かりにしてケン一は岩太郎の行方を捜査し、やっとフィリピン人の恋人にたどり着いた。その恋人も岩太郎の行先は分からなかったが、唯一故郷が秋田だということがわかった。秋田といってもとんでもない田舎で、牛無村というもうすぐダムの底に沈むというところだった。今は村おこしでキリタンポ村として売り出しているらしい。ケン一は妻のルル子と信介とともに岩太郎を追って車で秋田に向かった。

センチメンタル・ハートブレイク
帝都テレビの特番「48時間エイズ世界列島」は大成功のうちにエンディングを迎えようとしていた。次期編成局長候補のひとりで特番のプロデューサー甲賀賢三は成功に酔いしれていたのだが、それが一瞬で奈落の底に突き落とされた。
愛人の木村要子が関係をバラと脅してきたのだ。甲賀はテレビ局の専務の娘を妻にしていたが、現在は別居状態で離婚の協議中だった。原因は妻の浮気にあり、専務もそれを認めていたから、金銭的な負担もなく地位にも仕事にも影響はなかった。
が、それは要子の存在が知られていないからだった。もしそのことが知られれば大変なことになる。だから甲賀も要子にかんで含めるようにそのことを言い続け、要子も納得していた。ところが甲賀につい最近新しい愛人ができたのだ。しかもそれが要子に知られてしまった。
要子は甲賀を詰り、愛人関係をバラすと脅してきた。せっかくの特番の大成功が帳消しになってしまう事態だったが、甲賀は慌てずに要子に捨て台詞を残し去って行った。要子がマンションの自室で何者かに殺されたのは、その翌朝のことだった。
要子は特番の打上げが終わって泥酔してマンションに帰り着き、ぐっすりと眠った。昼過ぎに起きてシャワーを浴びているところを襲われたのだ。玄関には鍵もチェーンも賭けていなかった。真っ先に疑われたのは甲賀だった。だが甲賀はその時間、パリ行きの飛行機の中におり、ちょうど成田を離陸している最中だった。つまりアリバイがあったのだった。

渋柿とマックスの山
信介一家はケン一の同僚ゴリさんこと斉藤五郎刑事とともに休暇で信州白馬へスキーに行った。だが、やはりそこでも事件に遭遇した。事件の幕開きは、スキー場のレスキュー隊に2人の女性が駆け込んできたことだった。
駆け込んできた2人の女性は初心者で、山上のコースでそのうちの一人が他の女性スキーヤーと激突し、相手の女性は怪我をした上に意識がないという。怪我をした女性は文恵という名で、その恋人の男性が介抱しているという。
2人の初心者は男性の指示で山を降りレスキューに駆け込んだのだった。さっそくレスキュー隊が出動したが、レスキュー隊が発見したのは殺された文恵だった。文恵は絞殺されて雪の上に転がされていた。もちろん犯人は恋人と思われる男に違いなかった。その男は文恵にぶつかった初心者2人を遠ざけ、その間に文恵の頸を締めて殺し、どこかに逃げ去ったのだ。


島田荘司と新本格作家のメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -