魔術王事件

昭和45年1月、東京銀座で宝飾品の行商をしている桑形浩三が、国立にある二階堂家を訪れ蘭子に助けを求めた。桑形が事務所を置く銀座のビルの一室から殺人を目撃したというのだ。
桑形の事務所は雑居ビルの4階にあり、窓を隔てて路地向うに建つビルが見える。向いのビルも桑形の入っているビルと同様に4階建てで、窓ガラス越しにお互いの事務所が見通せた。夜10時過ぎ、事務所にひとりでいた桑形のところにマントと仮面をつけた男が押し入って来た。
男は魔術王と名乗り、拳銃で桑形を脅して椅子に縛り付けた。そして向いのビルで行われる殺人劇を見せたのだ。向いのビルの4階の一室には、魔術王とそっくりな男がいて、椅子に縛り付けた女をナイフで刺し殺したのだ。
魔術王はその殺人劇を桑形に見せた後、マントの裾で桑形の視界を少しの間だけ遮った。次に桑形が見たのは何の変哲もない向いの部屋。驚く桑形を尻目に魔術王はマントを翻して出て行ってしまった。
それから1時間後、苦労していましめを解いた桑形は助けを求め、警察に事件を通報した。警察が向いのビルを調べたが、向いの部屋には殺人の痕跡は何もなかった。いくら桑形が訴えても警察は相手にせず、桑形は蘭子のところにかけ込んできたというわけだった。
この話を聞いた蘭子は桑形の言を信じ、警察に手をまわして事件を解決してしまう。事件は本当にあり、奇術的なトリックで桑形を欺いたのだった。だが犠牲になった女性の死体と、魔術王を名乗る人物を見つけることはできなかった。

銀座の事件から1ヶ月後の2月下旬、北海道函館の繁華街にある高級ナイトクラブ黒蜥蜴で陰惨な事件が起きた。黒蜥蜴にはメフィストという名のイリュージョン魔術師が出演していた。空中浮遊や首切りなどの大魔術を行い人気を博しており、その夜も函館の上流階級の人々で黒蜥蜴は盛況だった。
そのなかに函館財界に君臨する宝生一族の宝生貴美子とその婚約者で医大の助教授の竜岡孝史、おなじく宝生一族の芝原悦夫とその恋人の鈴原智華の2組のカップルもいた。
やがてメフィストの舞台は進み、貴美子と智華が舞台に上がったが、それが惨劇の始まりだった。智華はベッドに縛り付けられ、電動ノコギリで生きながらに切断された。最初は誰もがトリックと思ったが、飛び散る血潮からすぐに観客は異変を感じパニックになった。
メフィストはさらに自分の助手をギロチンにかけて首と右手、右脚を切断するとそれを観客に投げつけたのだ。黒蜥蜴の中は逃げ惑う客で阿鼻叫喚の状態だった。そのパニックの中、メフィストは貴美子を拉致して堂々と逃走してしまった。
大勢の面前で猟奇殺人事件と誘拐事件が起きたのだ。しかもその犠牲者は函館財界を支配する宝生一族の人間だった。 その後の調べで、東京銀座で殺されたらしい女も宝生一族の人間であることが分かった。銀座事件の犯人魔術王はどうやらメフィストであったようだ。宝生一族に恨みを持つメフィストは、一族への報復の幕を切って落としたのだった。

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