猪苗代マジック

「こいつは豚だ。社会の害毒だ。世の中の害虫だ。与党系県議会議員佐野浩三に死を与える。常々伝えられているとおり、こいつは県民の血税をこっそり懐に入れ、私腹を肥やしている。土地開発公社の設立資金の一部を猫ばばし、自分が社長を務める土建会社の運営費に充てているのだ…」
この処刑魔と名乗る人物の犯行声明文が、佐野浩三の他殺死体の横に置かれていた。佐野の死体は福島県の磐梯山麓の深い森の中で見つかった。
その死体はロープで体中を縛られたうえ、ガムテープで猿轡をされ、全身をむちゃくちゃに殴られ、眼球はえぐられ、耳と鼻がそぎ落とされるという無残さで、その胸にはとどめの一撃として登山ナイフが深々と突きたてられいた。
処刑魔の犯行は、その後も続いた。翌月には同じく県会議員の斉藤善一が、翌々月には福島市議会議員の徳山宗之助が同じように無残な死体で発見され、世間に衝撃を与えた。
そして最初の事件から4ヶ月、今度は猪苗代北警察署長で、一連の処刑魔事件の捜査本部で陣頭指揮をとっていた杉尾浩二郎が犠牲になった。
もっとも杉尾はキャリアの警察官僚でありながら、交通違反のもみ消しなどの不正を行い、暴力団幹部ともつながりがあると噂され、接待好きで、やたらに威張り散らすという県警内部でも鼻つまみだったから、捜査側でもあまり同情はされなかった。
翌年なって一連の事件の容疑者として、県庁職員勅使河原良平が逮捕された。勅使河原は裁判で最初の3件については犯行を求めたが、杉尾署長殺しについては自白を強要されたとして否認した。
勅使河原良平は第一審で死刑、控訴したが第二審は一審判決を支持した。勅使河原は、さらに最高裁に上告した。

それから10年、ふたたび処刑魔が復活した。元大蔵事務次官でスキーリゾート・スノーランド猪苗代のオーナー美濃部貞治が、リゾ−ト内の別荘で死体となって見つかった。
死体は服を着たままジャグジー付の風呂で発見された。風呂の脱衣室の鏡には美濃部を告発する処刑魔の犯行声明文が張りつけてあった。
美濃部がスキーリゾート・スノーランド猪苗代の開発にあたって、税金や公的資金を悪用して、大手ゼネコンと組んで私腹を肥やしたというのだ。
さらに同じころ、スノーランド猪苗代パラダイス・マンション内の自室で、裏磐梯町の前町長岩崎栄吾郎の死体が発見された。
室内には、やはり処刑魔からの犯行声明文があり、それには岩崎は美濃部貞治と組んで、スキーリゾート・スノーランド猪苗代の開発をめぐって私腹を肥やしたと書かれていた。
凶悪な連続殺人事件に吸い寄せられるようにスキーリゾート・スノーランド猪苗代にやってきたのは、水乃サトルと美並由加里の2人。
2人はアンタレス旅行社の社員で、スキーリゾート・スノーランド猪苗代の視察に来たのだ。そこで偶然のように巡り合った殺人事件、しかも岩崎殺しの方は完全オートロックシステム、監視カメラ付きの密室殺人だった。
サトルは目を輝かせ、由加里の心配をよそに図々しく事件の渦中に飛び込んで行った。

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