藤田先生のミステリアスな一年

地方の農村の小学校に東京から赴任してきた若い教師藤田先生は、6年1組の担任になった。その藤田忠先生は教育熱心であったが、生徒たちに少し変わった教育をした先生であった。先生は数々の魔法を披露して、その魔法を通じて生徒たちにいろいろなことを教え諭したのだった。
多くの魔法のうちでも、特に不思議で印象に残ったのは、インディアンの伝説、七夕の奇跡、サンドイッチの魔法、樹海の脱出、千枚の絵の出現の5つだった。インディアンの伝説は藤田先生が赴任後まもなく、クラスの中で不幸の手紙がはやり、それを読んだ生徒たちが暗くなり意気消沈したムードが漂ったとき、先生が手紙を一瞬にして消し去った奇跡だった。
先生は校庭の滑り台をトーテムポールに見立て、そのてっぺんに即席のポストを作り、そこに生徒のところに来た不幸の手紙を投げいれさせ、ポストの中から消し去ってしまった。先生はこれを通じて不幸の手紙を書くような貧しい心を持つことなく、もっと強い人間になれと教えたのだった。
夏の七夕の奇跡は、生徒たちが書いた夢や希望を問題集の中に挟ませ、中身を見ないで生徒たちの夢や希望を当てるというもので、これも百発百中の正解率だった。このことを通じて先生は、他人のことを考えたり思いやる人間になるように教えたのだった。
サンドイッチの魔法は教生の花山先生が行った魔法だったが、もちろん藤田先生が教えたに違いなかった。クラス全員で死火山のカルデラに行ったとき、何もない草原から全員分のサンドイッチを忽然と出現させた魔法だった。カルデラの出入りは一か所しかない切通しからしかできず、ほかには草原と花山先生の車があっただけで、このなにもない場所から5分間の猶予で大量のサンドイッチを出現させたのだ。
樹海の脱出は突発的な出来事だった。クラスでピクニックに行ったときに、生徒の一人が、迷い込んだら出られないといわれる樹海に入り込み迷子になってしまった。先生は生徒を捜しに樹海に入り、見事生徒を救出して樹海から戻って来たのだ。
千枚の絵の出現は、卒業式の前日の最後の魔法だった。教室から机や何かものを隠せそうなものをすべて外に出し、さらに生徒たちもいったん教室から出した。数分後、生徒たちが教室に入ると、そこにはかつて生徒たちが描いた多くの絵が出現したのだった。生徒たちは千枚はあるかという大量の絵を教室に飾り、お別れ会を行った。
いずれも何かトリックがあるのは生徒たちにはわかっていたが、先生は絶対に種を教えず、魔法の力だと強調するばかりだった。そして生徒たちは中学に進学し、今では社会で活躍している。生徒たちは藤田先生の魔法を通じての教えをしっかりと守っていたが、奇跡のトリックだけは今でも気になっていた。
そして今、藤田先生が入院したとの報が生徒たちに入った。かつての6年1組の教え子たちは病院に見舞いに行ったが、やはり話題になるのは魔法のことだった。そこで先生の退院を機に、小学校の同窓会をやり、皆で魔法の種を推理し合おうということになったのだった。
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