夏のレプリカ

前作「幻惑の死と使途」と表裏一体をなす作品で、時間的に「幻惑の死と使途」事件と同時進行するが、事件としてはまったく関連がなく独立した作品として読めるようになっている。
西之園萌絵の高校時代の同級生で親友の簑沢杜萌は、東京で一人暮らしをして大学に通っていたが、2年ぶりで実家のある愛知県に帰って来た。
杜萌の父は、杜萌とは血が繋がっていないが、県会議員を勤める大物で、犬山市郊外に大きな屋敷を持っていた。名古屋で萌絵と久しぶりに再会しておしゃべりをしたあと、杜萌は実家に向かった。
ところが屋敷には新しく来た佐伯という通いのお手伝いがいるだけで、父も母も姉もいなかった。杜萌と姉の紗奈恵は実の姉妹で、2人が子供の頃に母親が今の父と再婚したのだった。
実家には父の実の子で、戸籍上は杜萌たちの兄に当たる全盲の詩人簑沢康生もいたが、康生は屋敷の3階にある専用室から外に出ることはなかった。
佐伯によると、佐伯も康生のことは聞いてはいるが、姿をみたことはなく、普段の康生の世話も母親と姉の紗奈恵がしているのだという。
その話を聞いて少し変だと思った杜萌だったが、杜萌自身も康生をあまり好かなかったせいもあって、別段気にせずにいた。佐伯が帰り夜遅くなっても、父も母も姉も帰宅しなかった。
最初は外出が重なったのだろうと軽く考えていた杜萌も、段々と心配になってくるが、どうすることもできずにベッドに入った。翌朝、一人で朝食の準備を始めようとするとき、一人の男が突然目の前に現れた。

男は顔を隠し拳銃を持っていた。杜萌を誘拐するつもりだと言う。すでに父も母も姉も誘拐しているとも語った。やがて男に促されて杜萌は車に乗り込み、簑沢家の駒ヶ根にある別荘に向けて運転をさせられる。
別荘に着くと、そこにはもう一台の車が駐車していた。杜萌を誘拐した男は車を降り、駐車している車に近づき中を覗きこんだ。そして手にした拳銃を空に向けて一発撃つと、杜萌の運転してきた車を奪い逃げ出していった。
少しして別荘から父や母、そして姉が駆け出してきて杜萌を囲んだ。彼らも誘拐され、別荘に連れ込まれて一晩監禁されていたのだという。そして父親が駐車していた車を覗き込むと、そこには若い男女が死んでいた。
やがて警察が到着してわかったことだが、2人は札付きの過激派で、蓑沢たちを誘拐した犯人に間違いなかった。2人は拳銃を撃ち合ったらしく、お互いの手には拳銃が握られ、そこから発射された弾丸がそれぞれの体を貫いていた。
そして杜萌を誘拐し、現場から逃走した男も彼らの仲間の赤松という男だと考えられた。
警察による捜査が始まるが、西之園萌絵は同時期に愛知県の公園で発生したマジシャン殺人事件(幻惑の死と使途)にかかり切りで、蓑沢家の事件の発生すら知らなかった。
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