幻惑の死と使途

エスケープマジックの第一人者である天才奇術師有里匠幻は、どんな密室からでも抜け出して見せると常々言っていた。その匠幻が那古野市の滝野ヶ池緑地公園の池でエスケープマジックを披露した。
池の畔のステージで金色に塗られた箱に入り、周囲を鎖で縛られたうえ、鎖にはいくつもの南京錠がかけられる。そして箱はクレーンで吊り上げられて、池の中に浮かべられたいかだの上に。
やがて箱からは火が出て箱は爆発して木っ端微塵に。ステージに再び金色の箱がクレーンで置かれ、そこからは匠幻が真っ赤な衣装で現れた。と思ったら匠幻はばったりと倒れた。その胸には深々とナイフが突き立っていた。
このショーはテレビ局のビデオ撮りが行われ、千人近い観衆の中で行われた。目撃者は多数いたが、匠幻が現れたときには誰も側にいなかった。
のちに警察の検証でも殺害方法はわからず、一部始終を収めたテレビ局のビデオも、殺害方法や犯人の捜索には全く役に立たなかった。

衆人環視の中で殺害された匠幻の葬儀は、数日後に千種セレモニーホールで執り行われた。祭壇前には棺が置かれ、その窓は開かれてメーキャップした匠幻の顔を覗かせていた。
焼香が終り棺の蓋がいったん開けられて、匠幻の遺族や弟子によって匠幻の遺体は花で埋められる。棺の蓋が閉じられて霊柩車に積み込まれる。
このときに故人の遺志として弟子の一人が棺に布をかけて、棺の色を真っ赤に代える手品を見せた。そして棺は霊柩車に入れられ火葬場に向った。
その直後に霊柩車が急ブレーキで止まり、運転手が転げ出てきた。棺の中から声が聞こえるというのだ。なるほど不気味な声が聞こえていた。
霊柩車のドア慌てて開かれて棺が下ろされる。蓋が取られると中にはレコーダーが一つ入っていただけだった。不気味な声はそのレコーダーから出ていた。
だが、匠幻の遺体はどこにもなかった。霊柩車やホールも隅々まで捜索されたが遺体はどこからも出てこなかった。匠幻は死してなおエスケープマジックを行ったのだろうか?
滝野ヶ池緑地公園にマジックを見に行った西之園萌絵は、行きがかり上葬儀の場にも居合わせ、謎を解くべく行動をするが…
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