メルカトルと美袋のための殺人

長篇に向かない探偵メルカトル鮎とワトソン役でミステリ作家の美袋三条が挑む、不可能犯罪から犯人当てまで…
遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる
教職を退いて長野県の山村にある別荘に住まいする大垣守のもとに招待された面々。推理作家の美袋もそのうちの一人であった。そしてある夜、殺人事件が起きた。まず夜中に美袋の隣室から銃声が響いた。
別荘にいた人たちが駆けつける。その部屋にいたのは衣川佑美子という若い女性で、美袋も好意を抱いていた。部屋は2階で窓には鉄格子が嵌り、美袋側に抜けるドアには美袋の部屋から閂がかかり、廊下へのドアには部屋の中から閂がかかり、美袋側とは反対側の隣室の大垣の部屋との間だけが行き来できる状態だった。
その部屋の中で佑美子は銃で死んでいたのだ。そして行き来ができた大垣の部屋はもぬけの殻だった。大垣もまた死んでいたのだ。キッチンで花瓶で後頭部を強打されていたが、大垣の死は佑美子の死より30分も前のことだった…

化粧した男の冒険
共通の友人増岡からの招待で、増岡の経営するペンションに滞在する美袋とメルカトル。退屈を持て余しだした頃に起きたのは殺人事件。ペンションの客の一人高松が、部屋でナイフで刺し殺された。
ナイフは心臓を一突きで即死の状態だったが、奇妙なことに高松は顔に化粧をされていた。化粧道具は高松が彼女へのプレゼント用に買った高級品で、口紅、アイシャドー、ファンデーションなどが封を切られて使われていた。
高松はゼミの仲間5人とともに、合宿のためペンションを訪れていた。当然、容疑者は高松のゼミ仲間の5人の中にいると考えられたが、それにしても犯人はなぜ死体の顔に化粧を施したのだろうか…

小人閒居為不善
身辺に危険・不安を感じている方、相談・調査承りますというダイレクトメールを市内の該当者、つまりある程度財産があり、血縁者から金の無心をされていそうな人物に発送したメルカトル鮎のところに、神楽祐尋という老人が訪れた。
祐尋はかなり有名な画家であったが血縁が薄く、甥と姪がいるだけだった。この甥と姪が祐尋の財産を狙っているというのだ。
甥の滝町尚也はギャンブルに凝って借金だらけ、姪の高津彩子は夫とともに経営している会社の経営が思わしくなく、どちらも喉から手が出るほど金が欲しいというのだ。
話を聞いたメルカトルだが、以外にも祐尋の依頼を断った。一方、祐尋の方もあっさりと引きさがって事務所を出て行こうとしたが…

水難
ひなびた山間の温泉旅館が事件の舞台。その旅館では10年前に土砂崩れが起きて、離れにとまっていた修学旅行の女子中学生100名余りが犠牲になった。ところがそのうち1人だけ、行方がいまだにわからないという。
いくら捜索しても遺体が発見されなかったのだ。それ以来、その鹿鳴館香織という中学生の幽霊が、旅館やその裏手の神社に出るという噂だった。10年後、供養のために5人の女性が旅館を訪れた。
いずれも当時同じ中学校の生徒で、3人は助かり、1人は無断外出していて難を免れ、もう1人は盲腸で修学旅行を欠席していた。その供養に訪れた5人のうちの2人が、旅館の敷地内の土蔵の中で死体で見つかった。
土蔵は鍵がかかり、その扉には赤ペンキで大きく死という字が殴り書きされていた。土蔵の床にはほこりが積もり足跡はなく、一人は首の骨を折った窒息死、もう一人はナイフで脇腹を刺された失血死。
土蔵の扉は施錠されていたが、高い位置には通風用の窓があり、格子も壊れていて人一人が通り抜けることができるスペースがあった。死体はどうもそこから落とされたらしいのだが…

ノスタルジア
正月、メルカトル鮎に緊急呼び出しを受けた美袋は、駆けつけたメルカトルの事務所で原稿を渡された。原稿にかかれていたのはメルカトルが暇つぶしに書いた犯人あての短篇だった。
雪の降り止んだ京都のある屋敷で起きた事件を扱った原稿は二重密室事件だった。上杉謙信という実業家が、屋敷の離れで死んでいるのが養子の兄弟によって発見された。
発見時は離れの回りには足跡一つなく、離れのドアには鍵がかかっていたのだった。しかも登場人物はごく限定されたものだったが、メルカトルは美袋に絶対に犯人はあてることはできないと挑んできた。

彷徨える美袋
長篇の締切に追われた美袋は、散歩がてらコンビニに買い物に出かけたが、その途中で何者かに誘拐された。気がつけばどこかの小屋の藁の上。持ち物といえばジャケットのポケットに入ったシガレットケースのみ。
そのシガレットケースは3日前に友人の浦澤大黒から送られてきたもので、銀の表面の中央に大黒様が描かれていた。手紙が添えられ、肌身離さず持っていてくれと書かれており、買物に行くときも持って出たのだった。
小屋からはい出した美袋は山道を彷徨うように歩き、一軒の灯を見つけた。そこはペンションで助けを求めて転がり込んだが、そこのオーナーがなんと大黒の弟の美紀弥。
美袋が誘拐された事情を知ると、美紀弥は大黒が行方不明であると打ち明けて来た。そして今、大黒の友人たちがペンションに集まっているのだという。
だが美紀弥は、その友人の一人が大黒の行方不明に関係があるのではと疑っていた。なぜなら友人グループの諸石という男が自殺した事件の真相を大黒が調べ、何かをつかんだらしいというのだ…

シベリア急行西へ
シベリア急行でモスクワに向かっていたツアー一行の中にはメルカトルと美袋もいた。一行は列車の最後尾に連結された、貸切コンパートメント車両に陣取っていた。
そして旅行3日目のこと、一行が食堂車で夕食をとっているときに、雪原で列車が急停車した。ロシア語のわかる人物によると、列車の前方に飛行機の尾翼が落下し、列車の進路を塞いだというのだ。
停車はわずか20分、障害物が取り除けられたとみえて列車は動き出した。その後一行が戻った特別車両の5号室で、参加者の一人小説家の桐原剛造が殺されていたのだ。
桐原は旅行中のほとんど5号室に籠って執筆に励んでいた。一行が誘い合わせて食堂車に向かう直前、5号室からは弟子兼アシスタントの北が出てきて、執筆中だから食事にはいかないと一同に断ったから、北の言を信じるとすれば桐原が死んだのは一行が食事をしている間であった。
そうなると食堂車の後ろにある特別車両へ出入りした人物は、ごく限られてしまい、その中に犯人がいることになるが…


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