木製の王子

比叡山の山奥にひっそりと建つ白樫家には白樫宗禎と尚佳の老夫妻、那智規伸と晃子の老夫妻が同居していた。、ともに男女の双子があり、その双子同士の男女が結ばれている。すなわち白樫宗尚の妻には那智伸子、那智規晃の妻には白樫禎佳。この2組の家族も同居していた。
白樫宗尚夫妻の子白樫宗伸には那智規晃夫妻の娘晃佳が嫁ぎ、2人の間には宗晃という子供がいる。この3人も同居していた。つまり4世代にわたって白樫家と那智家が婚姻を繰り返し、その2家の家系図は普通とは逆のピラミッド型を描き、白樫宗晃に収斂していた。
この閉じられた一族の当主役は白樫宗尚で、宗尚は世界に名が響いた画家であった。この宗尚のマネジャーと一族のスポークスマンの役を果たすのが、宗尚の子の宗伸で、宗伸だけが下界に顔も名前も知られており、ほかに一族の人間はほとんど下界に下りてくることもなかった。

この白樫家に向った如月烏有と安城則定という京都の出版社の編集員。宗尚が宗晃のために描いた「聖家族」と題する大作が完成したのを取材行ったのだ。
取材を終えた頃から雪が激しくなって帰ることができず、白樫家の好意で2人は泊まることになった。実は安城則定の本当の父と母は白樫家か那智家の人間らしかった。
安城の母が病死する寸前に枕元で則定に、則定は本当の子供ではなく、子供がどうしても欲しかった安城の母が京都駅で浚ってきたことを告白したのである。そのとき則定の首から下げられていた特徴のある指輪。
その指輪から辿って則定は白樫家に辿りついたのだった。今回取材に訪れたのも、本当の目的は白樫家の中を探り、自分の本当の父母を探るためであった。

雪で閉じ込められたことは安城にとっては目的を果たす思ってもないチャンスであった。食後ピアノ室で晃佳と2人きりになった安城は指輪を見せて晃佳が実の姉ではないかと詰め寄った。
晃佳は動揺し、翌日に全てを話すとしてその場は終わった。そして、その夜9時、晃佳は首を切り落とされて殺された。首はピアノの上に据えられ、胴体は庭の焼却炉で燃やされていた。
雪を突いて警察がやってきて事情聴取や現場検証が行われ、その結果わかったことは、その夜家にいた全員に殺害時刻のアリバイがあったことだった。
晃佳の死体が発見されたのは9時、皆の前から晃佳がピアノを弾くために消えたのが8時。殺害+首の切断+胴体の運び出しに要する時間は少なく見ても14分、だが全員、14分以上一人になった者はいなかったのだ。
白樫家は家中のいたるところにデジタル時計が据えられ、時間に管理されていると言えなくもない状態で、全員の8時から9時の1時間の行動は分刻みで把握でき、その精緻な行動表によれば誰も晃佳を殺すことはできなかった…
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