駒場の七つの迷宮

東大生葛城陵治の伯父は天霊会という新興宗教の教祖だった。陵治の父親が借金を抱えて会社を潰し、その借金の肩代わりを伯父がしてくれた交換条件として、一家揃って天霊会したのが宗教との出合だった。
最初のうちは新興宗教に懐疑的な陵治だったが、伯父のところに出入りするうちにその教義に心酔し、今では渋谷支部長の父親のもとで、東大駒場の責任者だった。
東大内ではサークルとして「思想と超越研究会」として活動していたが、天霊会自体が弱小新興宗教で、学外のメンバーも含めてもサークルの人数は10人にも満たなかった。
それでも毎年4月になると、他の宗教サークルと同様に新入生を狙って駒場の東大構内で朝から勧誘活動を行った。しかし金も人もない悲しさで、勧誘活動はなかなか成果を挙げなかった。
勧誘活動を続けるうちに、陵治はひとりの女性に注目した。その女性は毎日のように勧誘活動をしていたが、その成功率が驚異的によかった。
聞けば、他の宗教系サークルでも注目しており、その女性を「勧誘女王」と渾名していた。「勧誘女王」の勧誘は天才的であった。日に3〜4人は確実に勧誘に成功していた。
これは絶対に何かある、と直感した陵治は、わざと女性に勧誘されるが、特別不思議な事はしていなかった。さらに観察を続ける内に、その女性は複数の宗教法人の掛け持ちをしていることを突き止めた。

女性の名は鈴葦想亜羅、女子高時代から勧誘をしているというベテランだった。陵治は想亜羅が宗教法人の掛け持ちをしていることを詰ったが、想亜羅はまったく意に介せず、むしろ一つの宗教しか認めないほうが傲慢でおかしいと反論する。
その反論もかなり理に適ったもので、結局想亜羅は渋谷支部長である陵治の父親の意向もあって、「思想と超越研究会」の勧誘員も掛け持ちすることになった。
ただし「思想と超越研究会」のために時間を割けるのは週に1日金曜日だけ。だが想亜羅が金曜日に勧誘に加わると、「思想と超越研究会」への加入者は増えて、あっという間に会員は10人になった。
ところが、ここに思わぬ敵が現れた。敵は「宗教から駒場を守る会」というサークルで、天霊会が怪しげな宗教法人として週刊誌に載ってから、「思想と超越研究会」への露骨な嫌がらせを始めた。
そして駒場寮で事件が起きた。駒場寮の南寮3階の部屋を予約して活動をしようとした「思想と超越研究会」の前に、「宗教から駒場を守る会」がピケを張り活動予定の部屋に行かせまいとした。
小競り合いをしているうちに、3階の部屋で人が殺された。現場に凶器はなく、喉を切り裂くという凄まじい死に方で、自殺説は一蹴されて殺人と断定された。
被害者は「宗教から駒場を守る会」がピケを張る直前まで生存が確認され、ピケ以降はその部屋へは人目に触れずに行けなくなった。
そのために犯人の範囲は極端に狭まった。「宗教から駒場を守る会」がピケを張る前に、3階の部屋に行き、その後も3階に留まっていた人物しか物理的に犯人になり得なかった。そして、そんな人物は一人だけで、それは想亜羅だった。
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