「夢見」の密室

円澄悠梨香が「ボロン・マイェルの家」という団体に顔を出すようになったのは、大学時代のクラスメート篠林千恵美に誘われたのがきっかけだった。
そこは新興宗教のようにも見えたが、主宰者たちによると古代マヤ文明の神を崇め、マヤの時代に予言されていた2012年の世界の終末を回避するために祈りを捧げる団体で、宗教とは関係ないという。
最初は胡散臭いと思っていた悠梨香だが、何回か通って話を聞き、活動に参加するうちに「ボロン・マイェルの家」の幹部になってしまう。
もともと100人にも満たない小さな団体であったし、悠梨香が「ボロン・マイェルの家」の幹部たちの言う「夢見」の感覚が並はずれて強かったこともあった。
特に幹部の一人である由紀澤卯月は悠梨香の並はずれた能力を高く買い、その強い要請で悠梨香は山梨県小渕沢の山中にある施設「ピラミッドの家」での共同生活に参加することになった。
そこには卯月のほか3人の幹部の川藤、ハルトマン、ベニトと手伝いの人間が数人おり、秋分の日の儀式に向け準備をしていた。
「ピラミッドの家」はその名の通りピラミッド型をした3階建ての建物で、1階は広間のようなスペース、2階は中央の正方形の部屋を囲んで東西南北に4つの小さな部屋があり、中央の部屋から3階へ螺旋階段が通じていた。
儀式当日は2階の4つの小部屋に川藤、ハルトマン、ベニトと悠梨香が入り瞑想し、3階にいる卯月にエナジーを送り、卯月が戦士として神に祈ることになっていた。

その準備のために連日準備活動をしていたが、そこに卯月の母の三沢あきのと双子の妹五月が乗り込んできた。三沢家は日本有数の大企業のオーナーで、あきのは卯月が怪しげな宗教にかぶれていることを心配して連れ戻しに来たのだった。卯月は当然抵抗したが、あきのはあきらめずに連日やってきた。
一方、卯月の妹の五月はおとなしく、卯月とあきのが言い争っている間に悠梨香が相手をし、やがて夜中に「ピラミッドの家」に忍んで来るようになる。
もともと卯月と双子であるために感覚がよく、いつしか「ボロン・マイェルの家」の準メンバーのようになってしまう。それを知ったあきのは激怒し、儀式の当日に「ピラミッドの家」に乗り込んでくるが、手伝いのメンバーがなんとか乱入を阻止した。
そしてその夜「ピラミッドの家」から出火し、3階の部屋で祈りを捧げていたはずの卯月が刺殺されているのが発見された。3階に上る螺旋階段は、周囲の4つの部屋に入った悠梨香たち4人の幹部に見張られていた。
4人とも瞑想していたとはいえ、4人もの眼をごまかして3階に上がるのは不可能だし、螺旋階段以外に3階に上がる手段はない。やがて火が廻り卯月の死体は焼えてしまうが、卯月が刺殺されていたのは間違いない。
一方、五月はこの火事で大火傷を負って意識不明となり病院に担ぎ込まれたが、意識が回復すると自分は卯月であると言い出し、卯月しか知らないはずのことを次々と言いはじめた…
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