空中庭園の殺人

古代バビロニア王国の都バビロンには、空中庭園があった。その空中庭園は階段型ピラミッドの形状をしており、五層からなるテラスが載っていた。
テラスは上にの層に行けば行くほど小さくなり、各層には植物や草花が植えられ、最上層には噴水があって、そこからはバビロンの町が見渡せたという。
やがてバビロニアは、ペルシャ帝国の攻撃を受ける。ペルシャのクセルクセス王が、たぐい稀な美貌をもつバビロニアのセミラミス王女を手に入れるために、強力な軍隊を率いてバビロンに侵攻したのだ。
バビロンはペルシャ軍に蹂躙され、逃げ場を失ったセミラミス王女は空中庭園に入り、上へ上へと逃げて最上層にいたり、その扉を閉め切る。
最上層は、下層の庭園に四方を囲まれているから、下に飛び降りられるような場所もなく、当然に逃げ道などない。ところが不思議なことに殺到したペルシャ兵が扉をこじ開けて、最上層になだれ込むと王女は影も形もなかったという。
空中庭園を愛した王女の為に、空中庭園は最後に大きな魔法を使って、王女をそこから逃れさせたのである。王女はその後ペルシャ帝国の手の届かぬところで、幸せな余生を送ったという。
以上がバビロニア物語などで語られている王女消失事件の内容であり、バビロンの空中庭園の謎として伝えられてきたものであった。

駆け出しのミステリ作家高沢のり子こと小森は、雑誌に2回に分けて長篇を連載することになった。予定されていた作家が急病になり、その代役である。
もともと、その社の長篇執筆依頼を受けていながら、まだ一行も書いていないために、時間的に相当厳しいにもかかわらず小森は引き受けざるを得なかった。
担当編集者と打ち合わせて、バビロンの空中庭園の王女消失事件を絡めたミステリにすることにした。というのは、最近イラクの遺跡調査から戻って来た鷹岡大学の考古学の権威葦沢教授が大きな話題になっていたからだった。
さらに小森も鷹岡大学の考古学学科の出身であり、葦沢教授とも面識があったことも大きな理由であった。小森はさっそく葦沢教授に連絡を取り、取材の件を承諾してもらう。
葦沢教授は王女消失事件の真相について自身の考えを持っており、それを論文にして学内に発表する予定であり、論文が発表されれば、王女消失事件の真相を小説化しても構わないという。
その論文は今執筆中であり、発表までは誰にもその内容は明かせないというのだ。時間的には厳しいものがったが、論文発表後でもなんとか雑誌の締切には間に合う。
そこで小森はひたすら教授の論文を待つことにしたのだが、ある日研究室が荒らされて論文の入ったフロッピーディスクが破壊されてしまう。
そして、今度は教授が研究棟から墜落して死んでしまった。研究棟の屋上はバビロンの空中庭園を思わせるように、出入口は一箇所しかなく、教授がそのドアを開けたのは小森も含めて目撃者がいた。
その直後に教授が中庭に墜落したのだ。教授の後には誰も屋上に出ていかなかったし、屋上には誰もおらず教授を待ち伏せて突き落としたのでないことは確かだった。
では葦沢教授は飛び降り自殺したのだろう?小森の胸に疑惑が湧くが、それよりも王女消失事件の謎が永遠に葬られてしまったが痛手であった…
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