未完成

東シナ海に浮かぶ小島伊栗島には航空自衛隊の小さな基地があった。島の人口は161人、そのうち島民が120人であり自衛隊員が41人という内訳だった。
基地の司令は佐渡二佐といい、異例ながら島に着任して10年にもなる。自衛隊の人事からは考えられない長さであったが、それはとりもなおさず佐渡二佐が上に嫌われていたからに他ならなかった。
佐渡二佐の方針は島民と自衛隊員が積極的に交流することだった。その結果島にいる全てに人は、島にいる全ての人のことを知っていた。したがって基地の警備も非常に楽になった。
もともと産業などない島なので島にとって自衛隊はありがたい存在であった。学校の病院も警察もない島では、急病人が出れば自衛隊に頼り、島外からの人間が不謹慎なことをすれば自衛隊に頼った。
島民は自衛隊を歓迎し、そのことは島全体がひとつの共同体のような雰囲気となることになった。反面秘密保持の観点からはリスクが生じることになるが、佐渡二佐はそれを教育により補った。
すくなくとも島民にとっても基地に勤務する自衛官にとっても、僻地である不便さを除けば、生活しやすく勤務しやすい場所になっていた。その伊栗島の基地で不祥事が起きた。射撃訓練中に小銃が一丁紛失したのだ。

その日、朝10時過ぎから行われた射撃訓練は指揮官1人に10人の隊員で、閉塞された射撃訓練場で行われていた。実弾を使った訓練であり、警備は厳重であり、絶対に小銃など盗めない環境であった。
ところが15分ほどで訓練は中止となった。島民のひとりがけがをしたのだ。すぐに訓練中の一部の隊員が怪我人の救護に向かい、残りは訓練場で待機となった。
怪我人はガラス片で負傷したが傷は深く、自衛隊のヘリが要請され本土の病院に運ばれることになった。九州の基地からヘリが飛来したのは30分後であった。
怪我人は無事にヘリに載せられたが、その後訓練場で銃を格納する段になり銃が一丁無くなっていることが判明したのだ。隊員にはこの事実が伏せられ、知っているのは佐渡二佐と幹部の2名だけだった。
すぐに訓練場は閉鎖され、場内や周辺が捜索されたが銃は発見できなかった。失われたのは64式小銃で、長さは約1m、重さは4.3sもあるから人目に触れずに簡単に持ち出すことは不可能だ。
しかも実弾訓練中であったので監視は厳しく、島外に持ち出されたというより基地外に持ち出された形跡もない。佐渡二佐からの報告により防衛部の朝香二尉が野上三曹とともに事件解明のために伊栗島に派遣された。
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