未明の悪夢

「そのとき」神戸の街に激震が走った。1995年1月17日午前5時46分、街は一日の中でもっとも静かなときだが、わずか20秒ほどの大きな揺れで一瞬にして崩壊し、人々は思いもしなかった人生を歩むことになった。
神戸の街で私立探偵をしていた有希真一もその一人だった。真一は1階が押し潰されて大きく傾いた自宅マンションから脱出すると、前夜一緒であった友人の占師雪御所圭子の救出に向った。
圭子は神戸の中心元町で占いの店を持っていたが、ペンシルビルに挟まれた店は無惨にも倒壊していた。近所の中華料理店の夫婦に手伝ってもらってやっと圭子を救出し、病院に運び込んだ。
圭子は外傷よりも内面、精神的なショックの方が大きく、自分の殻に閉じこもってめったに口も利かなくなった。そんな圭子をほっておくこともできずに、真一は圭子に付添って避難所で暮らす。

細々ながらも救援活動も始まり、やがて自衛隊も入って来てた。そんなとき兵庫県警の鯉口刑事が避難所を訪ねて来た。圭子は何度か時間の解決に寄与してきたので、鯉口刑事とも顔なじみで信頼も厚かった。
鯉口刑事によると大震災のさ中、市内で連続殺人事件が起きていたのだ。地震で倒壊した建物から男の声がし、自衛隊員が瓦礫を慎重に撤去したり機材で穴をあけたりしてやっと救助したところ、その男はすでにはるか前に殺されていた。
また、大きく傾いたビルが深夜に倒壊して道路を塞いでしまった。交通の支障がでたために優先的に撤去作業がはじまったが、中から鉄筋に突き刺さった男の死体が見つかった。
そのビルは倒壊の危険があるために警備員が常時貼りついており、ずっと無人であったことが確認されているのにである。さらに地震直前には、ある女を殺しその死体を被害者のマンションの浴室で切り刻んだ殺人犯もいた。
その犯人は、地震が起きた時はマンションの屋上にいたが、直後に死体を運び出すために外からロープを伝って被害者の部屋に戻った。
すると浴室からは死体が消えていた。怖くなった犯人は交番に自首したが、その交番で殺されてしまった。これらの連続殺人事件は警察によって公表が控えられていた。
パニックを防止するためだった。鯉口刑事は有希と圭子に事件解決への協力を要請しに来たのだ。有希は事件解決への協力が圭子を立ち直らせるきっかけになればと、その要請を受けたのだが…

本作品は第8回鮎川哲也賞受賞作で、「それまで」「そのとき」「それから」の3部構成で、「それまで」では関係者の震災までの生活や動きが語られる。
それだけでも3分の1の近くのボリュームで、以後も8割は震災の描写に向けられる。全編物語はパラレルに進行し、「それまで」ではあまりにパラレルすぎて正直いって投げ出したくなった。
「そのとき」以降の震災描写はかなりインパクトはあるのだが、その分ミステリの面白味は希薄になってしまっている。
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