霧舎巧 傑作短篇集

本格的にデビューする間に別名義で書いた2篇のほか書下ろしの1篇を加えた傑作選。
手首を持ち歩く男
新幹線の中で会社員がトイレに行って戻ってくると、座席に新聞紙に包まれた手首が置かれていた。びっくりしていると通路を挟んだ席の不気味な顔の男が、その手首は自分のだという。不気味な顔の男は蛭川と名乗り、座席を立ってグリーン車のほうに向かった。ちょうど静岡駅を通過したところだった。
それから暫くしてグリーン車の個室で相澤という男が殺されていた。個室の主は鴨志田という男で、相澤は昔の過激派の同士で、おそらく昔の同士であった蛭川に殺されたのだろうという。
ところが、その蛭川の死体が東京で発見されていた。しかも死体の発見は新幹線が東京駅を発車する前。蛭川の幽霊が自分の手首を持って新幹線に乗り込んで、相澤を鴨志田の個室で殺したのか…

紫陽花物語
沢山の紫陽花が前庭に植わっていることから、あじさい団地と呼ばれているマンションがあった。あじさい団地はもともとあじさい屋敷と言われていた旧家を取り壊して建てた物で、その3階にはあじさい屋敷に住んでいた老婆とその一家が住んでいる。
その一家のところは時々大きな荷物が運び込まれたり、運び出されたりしていた。そしてこの付近ではかなり前に頻繁に子供が行方不明になり、神隠しだと騒がれていたという。これらのことを繋げるとある想像が…

動物園の密室
横浜のN山動物園内にある飼料庫の中で、近所に住む獣医造田が頭を強く殴られて死んでいた。換気用の高窓と搬入用のシャッター付き扉に従業員用出入口の3つがあったが、窓は埃などの状況から見て使われたはずはなく、シャッターは鍵が厳重に保管され、従業員用出入り口の外には電気工事のための発電機が据えられており、ドア自体を開閉することが不可能だった。
工事は夜8時から朝まで行われており、工事関係者や立会人の目もあったし、シャッターを開けるような大きな音は誰も聞いていない。朝、工事が終わると入れ替わるように早出の職員が出勤しており、また工事の関係で発電機は置かれたままだった。発電機自体も人が一人で動かせるようなものでもなかった。
不思議なことに飼料庫の中の冷蔵庫と冷凍庫の中は空にされ、床に積まれた干藁もきれいになくなっていた。そして造他の死体の側には、1匹の小型カンガルーの子供が、やはり頭を殴られた状態で死んでいたのだった。

まだらの紐、再び
エリートの警察署長折川警視の趣味は爬虫類や両生類の飼育。深夜に関わらず、覚醒剤事件の報告に来た2人のエリートの部下が報告を終わると、蛇の話を延々と聞かせた。とくにスワンプ・アダーという沼地に住む毒蛇がご自慢だった。
暫くして署長の家に密告の電話があった。女子学生会館に住む桜川という女子学生が覚醒剤中毒だというのだ。折川警視は2人の部下とともに女子学生会館に駆け付けると、まず管理人室では管理人が死んでいた。なぜか手首が切られ、持ち去られていた。次に桜川の部屋では桜川が死んでいた。
桜川の部屋のドアには鍵が掛かり、窓は5センチほど開いていた。ただし部屋は3階で、左右上下の部屋にはほかの住人がいて不審者がそれらの部屋を通って桜川の部屋のベランダに行くことは不可能だった。
さらに桜川の部屋のドアのカギは付け替えられたばかりで、しかも特殊な鍵で合鍵は存在せず、唯一の鍵は死体のシャツの胸ポケットに入っていた。検死によると2人の死因は蛇毒、それもスワンプ・アダーという珍しい蛇の毒だった。

月の光の輝く夜に
男が月子と出会ったのは、満月の夜の公園だった。男は田舎から出て大学生活を始めたばかりで、たまたま田舎から送った荷物の中に、小学生時代に習っていたフルートが入っていたので、それを懐かしく思い、夜中の公園で吹いていた。
そのとき月子に声を掛けられたのだ。月子は高校3年生で、フルートを教えてほしいと言ってきた。風采の上がらない男が、女の子に声を掛けられるなど初めてだった。そんなこともあって、男は月子にフルートを吹きたければ自分で買わなければと突き放してしまった。
だが、それから男は月子を求めて毎晩公園に行った。だが月子は現れなかった。最初の出会いから1ヶ月後、同じ満月の夜に月子が再び現れた。しかも自分で買ったフルートを持って…

クリスマスの約束
あかずの扉研究会の二本松は大前田と2人、男同士の寂しい寂しいクリスマスを過ごすことになりそうだった。というのは研究会の皆は用事があったり、出かけていたりで都合が合わなかったのだ。そして大前田のもとにある人物が現われ、大前田もいなくなってしまった。ひとり残った二本松は…


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