風果つる館の殺人

強風が常に吹き付ける北アイルランドの海岸に突き出す半島状の断崖の上に建てられた城館は、土地の人々からは風果つる館と呼ばれていた。
風果つる館はユニオン鉱山株式会社の創始者で、一代で財を成したクリストファー・ケリイが経営の第一線から退いたのを機に購入したものであった。
ケリイ氏は38歳の時に政界進出のために、外交官の娘イングリットと結婚したが、イングリットには子供が生まれず結婚生活は必ずしも上手く行かなかった。
そのためにイヴォンヌ・ドワノーというフランス人を愛人にし、イヴォンヌはクローディア、リーガン、マーガレットという3つ子を産んだ。

女手ひとつで3つ子を育てることは困難で、そのためにケリイ氏は思い切ってイヴォンヌ母子を風果つる館に同居させた。イングリットは自身に子ができなかったこともあって、妻妾同居を認めたばかりか、イヴォンヌにたいして実の妹のように接し、その子供に対しても自分のこのように可愛がった。
最初は引け目を感じていたイヴォンヌも次第に心を開き、風果つる館での生活は平和そのものであった。妻妾同居が始まった7年がたったとき、この平和な風果つる館に悲劇が見舞った。
ある日の夕食近くになってイングリットは、イヴォンヌとクローディアの姿が見えないことに気づいた。庭に出て2人を探すと、庭師が2人は庭に作られた迷路の中に入っていったという。
イングリットは迷路に入り2人の姿を求めてその中心に行くと、そこには喉を掻き切られて事切れたイヴォンヌの死体と失神したクローディアの姿があった。
凶器がなかったことから事件は殺人と断定されたが、迷路の入口には2人が入ってからのちずっと庭師が剪定作業をしており誰も迷路に入っていないと証言した。
さらに地面は雨の後でぬかるんでいて、イヴォンヌの死体の周りには本人の足跡のほかに足跡はなかった。失神から覚めたクローディアから事情が聞かれたが、まだ8歳のクローディアは何も覚えていなかった。事件は密室での殺人事件となり、ついに迷宮入りしてしまった。

イヴォンヌの死から38年後、その間にケリイ氏は亡くなり、ユニオン鉱山株式会社はイングリットが経営した。イングリットには経営の才があったらしく、会社はさらに大きくなってイギリス有数の企業になり、リイ家の財産は莫大なものになった。
イングリットはイヴォンヌの死後3人の娘を引き取ったが、ケリイ氏が死去すると娘達に対して微妙に距離を置くようになった。やがてイングリットは成人した娘達を、会社の有能な青年と結婚させた。
長女のクロディアは夫を亡くしたが長男のウィリアムと養女のメアリーの2人の子供がいた。次女のリーガンには夫の長男スティーブン、長女コーデリアが、三女のマーガレットには夫と長男デイビット、長女パトリシアがいた。
三家族はイングリットとともに風果つる館で暮らしていたが、ついにイングリットの寿命が尽きた。イングリットは遺言で男と女の孫同士の間で結婚することを遺産相続の条件にした。そして最初に結婚した孫の親に遺産を半分ずつ相続させることにしたのだ。
つまりどうあっても一家族は遺産の分配に預れないことになる。三家族は遺言を聞いたとたんに敵愾心を燃やし、やがてそれが殺人を生むことになった。
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