監獄島

マルセイユの沖合約20キロの地中海に浮ぶ、周囲8キロばかりの小島であるサン・タントワーヌ島は、過去には流刑地として使われ、現在も刑務所がある孤島である。
現在タントワーヌ刑務所には終身刑を含む長期刑の服役者ばかり約50人が収監され、ガルベス所長以下30人の看守と職員が勤務している。
島には小規模な炭鉱があり、囚人による採炭作業が行われていたが、現在は石炭をほとんど掘りつくし、かつ2年前に大規模な落盤事故により多くの死者を出したことから炭鉱は閉鎖され、潮風による風食作用で建物の老朽化も酷く、このたび1年以内の刑務所の閉鎖と囚人の移送が決定された。
その矢先、パリ警視庁の警視総監イーグルロッシュ伯爵のところに一通の手紙が届いた。それによるとタントワーヌ刑務所で驚くべき陰謀が進行しているというのだ。
伯爵は手紙の内容が真実である可能性が高いと判断し、折から刑務所の現状を調査する視察団が派遣される計画があるのを幸い、自身が視察団の一員としてタントワーヌ島に向うことにした。
タントワーヌ刑務所には終身刑を受けた国際的犯罪者アレクセイ・ボールドウィンが収監されていた。ボールドウィンは大怪盗ルパンを彷彿とさせる大胆かつ不適な犯罪者であったが、フランスのベルトランと英国のカーターボーン卿の共同作戦で逮捕された。
逮捕の際にボールドウィンの情婦が警察側の流れ弾にあたって死亡し、情婦のお腹の中にはボールドウィンの子供もいたことから、ボールドウィンはベルトランとカーターボーン卿を心底から恨んでいた。
今回の手紙に書かれた驚くべき陰謀というのは、根拠はないものの、どうもボールドウィンに関係していると思われるのだ。そのために伯爵は、視察団の一員としてベルトラン、その甥で作家のパトリック・スミス、カーターボーン卿をメンバーに加え、さらに視察団の目的をカムフラージュするためにポール・ウェインライトとメアリー・ケリイの2人の民間人を入れた。
2人の民間人は、ともに歴史学者であり、刑務所の建物を歴史的な見地で調査するということにしたのだ。

1927年10月、一向はタントワーヌ島に上陸した。刑務所の中の職員棟が宿舎に割り当てられ、ベルトランらは密かに調査を開始した。
ベルトランらはまずボールドウィンに面会するが、ボールドウィンは不適な笑みを浮かべてベルトランを侮蔑し、脱獄して復讐してやると広言した。
その夜からボールドウィンに対する警備が強化された。ところが驚愕の事件が起きる。内部から閉ざされたボールドウィンの独房で看守長のミューラーが殺され、ボールドウィンの姿が消えた。
予告どおりボールドウィンは脱獄したのだ。看守が総動員されて山狩りが行われた。が、それをあざ笑うように不気味な事件が続く。
十字架形の獄舎の中央にある時計塔から火達磨の絞殺死体が吊り下がり、拘禁室の中では囚人がバラバラ死体となり、密室で調査団の一員ウェインライトがカーテンの紐で絞殺される。
一方で島と本土を結ぶ唯一の交通手段であるモーターボートのエンジンが壊されて航行不能になり、刑務所とボートの無線も徹底的に破壊されて通信手段を奪われてしまう。
一向は島に囚人や脱走したボールドウィンらとともに閉じ込められたのだ。立て続けに酸鼻を極める事件を起していると考えられるボールドウィンは見つからず、調査団の一向には焦りと苛立ちが…
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