双月城の惨劇

中世の城が建ち並ぶドイツのライン川。コブレンツに近い川沿いに建つ双月城もその一つだった。双月城の当主は美人の双子カレンとマリアのエールシュレーゲル姉妹であった。
双月城の代々の当主であるエールシュレーゲル家はマインツ大司教に繋がる由緒正しい家系であったが、なぜか代々女系の家系であった。
双月城にはその名前の由来となった満月の塔と新月の塔が聳えていて、その二つの塔とその間にある天守閣がライン川に沿って偉容を誇っていた。
だが見た目は美しい双月城の二つの塔は奇怪な伝説に彩られていた。満月の塔の最上階にある満月の部屋、新月の塔の最上階にある新月の部屋には黒い馬に乗り、黒い甲冑を着けた幽霊騎士が現れて、その部屋に泊まった城に仇を成す者たちの首を一刀のもとに切って捨てるというのだ。
そして第一次大戦が終わった現在、数人の客が滞在している双月城で毒殺未遂事件が起きた。城にはハリウッドの映画スターで城の使用人の子供であったクルト・ラインハルトがロケ地の下見に訪れていた。
クルトのほかにマネージャーのハンターや映画監督のトマソンも同行していたが、ある日のことクルトのもとに届けられたワインにストリキニーネが混入されていたのだ。
ワインが嫌いなクルトは、そのワインを双子の一人マリアに譲り、それを飲んだマリアが重態となった。幸い命はとりとめ、マリアも元気になったが、心配した姉妹の主治医ノイヴァンシュタイン博士が旧知のパトリック・スミスとパリ警察予審判事で名探偵の呼び声の高いシャルル・ベルトランに個人的に捜査を依頼したのだ。

ベルトランは双月城に捜査に行くことを承諾したが、手が離せずにスミスが先行して双月城に乗り込んだ。ところが、それを待っていたかのように奇怪な密室殺人が起きた。
嵐の日に満月の部屋でマリア・エールシュレーゲルの死体が発見され、姉のカレンが行方不明になったのだ。満月の塔への出入口には鍵がかけられ、さらに満月の部屋にも中から鍵がかけられていた。満月の部屋のライン川に沿った窓は開いていたが、その外は断崖絶壁であり人の出入りは不可能だった。
その部屋の中でマリアは首と両手首を切られ、さらに首と両手首はランプの油をかけられて黒焦げになるほど焼かれていた。
コブレンツ警察が捜査にあたるが、やがてそこにパリからベルトランが到着した。ベルトランとともにベルリン警察主任警部のフォン・ストロハイム男爵も双月城にやって来た。
ベルトランとストロハイム男爵は第一次大戦では、両国の諜報機関員として活躍し、銃撃戦も繰り広げたほどの好敵手であった。ベルトランが双月城に乗り込んだことを知って、ストロハイムもベルリンから駆けつけてきたのだ。
好敵手の2人はさっそくに事件の捜査を始めるが、その矢先に今度は新月の塔の新月の部屋でクルト・ラインハルトが殺されてしまう。
しかもクルトはマリアと同様に首を切られたうえ、新月の塔は鍵をかけられた密室であり、新月の部屋も中から鍵をかけられその鍵はクルトの生首が咥えていた。そして新月の部屋の窓が開いているのもマリアの事件と同じであった。
2つの事件は中世の伝説に語られる幽霊騎士によるものなのか…
島田荘司と新本格作家のメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -