探偵の秋あるいは猥の悲劇

山梨県内有数の名門である八田家は、代々名主を務めた家柄で、膨大な土地を所有し、資産は数十億とも百億ともいわれるが、世間からは評判が悪く「イカれた八田家」と言われていた。
その当主で70歳になる八田欲右衛門が冬山で死んだ。遺書を持っており、癌を苦にしての自殺と断定された。問題はその遺書であった。欲右衛門は生涯に三度結婚し二度離婚した。今の妻ゑみ緒は三度目の妻であった。
それぞれの妻は、ひとりづつ女の子を残した。最初の妻との子は薔薇子といい、大柄な女であったが、県内でもそこそこ名を知られた詩人であった。二度目の妻との子は小百合といい、中学時代からの不良であった。小百合は二度結婚し二度離婚した。
小百合には長男で中学生の高一と長女で4歳になるリカの2人の子供がいたが、高一は登校拒否児であり、引きこもりであった。そして現在の妻のゑみ緒との子はすみれといったが、すみれは生まれつき目が不自由であった。
さて欲右衛門の遺書は、長女の薔薇子、二女の小百合に1年以内に伴侶ができた時は、そのものに八田家当主の地位を与え、もしできなかったときにはゑみ緒を暫定的な当主として、一族の合議で当主を選ぶ、ただし三女すみれと結婚する意志が栗林たけの息子にあれば、たけの息子を最優先で当主とするとあったのだ。

この遺書が一族の間に波紋を呼ばないはずはなかった。欲右衛門の次弟平馬、末弟左平次、さらに欲右衛門の妹の夫で県政界のボスの吉田三郎らは、おのれが実質的な当主となるべく画策を開始した。
薔薇子には平馬の息子連太郎が脅迫まがいの接近をした。薔薇子が同性愛者である秘密をタネに結婚を迫ったのだ。連太郎には八田一族には珍しく経営の才があったが、変態的な性欲者であり、薔薇子は忌嫌っていた。
小百合には石森優一郎という八田交通社員が接近した。優一郎は吉田三郎の腹心で、絵にかいたようないい男であった。小百合はたちまち石森の魅力のとりこになってしまった。
一方、栗林たけの息子の昌平にはすみれと結婚する意志はなかったが、すみれの方では昌平と結婚したがっていた。栗林たけは八田家の女中頭を務めた女性で、昌平は欲右衛門の子ではないあkと噂されていた。
やがて欲右衛門の一周忌が迫った。一族の間の思惑は錯綜し、対立は激しくなっていった。そんなときゑみ緒未亡人の発案で、かつて八田家で村芝居をしていた市川乱菊が呼び寄せられた。
八田家の村芝居は近郷近在に広く知られた名物で、欲右衛門の気に入りでもあった。それを欲右衛門の一周忌に追悼公演という形で復活しようと考えたのだ。その乱菊の到着を待っていたように八田家で事件が起きた。
実は欲右衛門が残したノート、そのノートは死についての研究ノートで、いろいろな死に方が記されていたのだが、そのノートの記載された死に方で連続殺人事件が起きたのだ。

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