探偵の夏あるいは悪魔の子守唄

ある県の最北端にある辺境八鹿村は、そのおしゃべりと怠け者という村民の性格が八鹿気質として知られ、八馬鹿村というありがたくない別称まで頂戴していた。村はいまだに竹のお大尽の小竹家と梅のお大尽の小梅家の勢力に二分されていて、村民のほとんどがどちらかの勢力下で生活していた。
その八鹿村は先ごろまでダム騒動で揺れていた。村の大半が新しく建設されるダムのために水没してしまうのだ。一時は賛成派と反対派に分かれ、村を二分する騒動になったが、現在では青年団の一部を除いて村全体がダム建設に賛成していた。
そんな八鹿村に、探偵が派遣されてきた。名をキンダイチという。村長であり、村一番の実力者である梅のお大尽こと小梅佐兵衛からボディガードの依頼があったのだ。しかも料金は村費から出ているというから、ただごとではなかった。
佐兵衛がボディガードを依頼したのは、雑誌に掲載された八鹿村子守唄考と題する記事だった。矢鱈放言というふざけたペンネームで書かれたその記事によれば、八鹿村には古くから伝わるが、今では誰も唄わなくなった子守唄があるという。
その子守唄によれば「竹のお大尽は銭が好きで、銭箱を抱いて死んだ」「梅のお大尽は寝るのが好きで、梅もぎ娘の伽で 昼寝をして死んだ」「お寺の所化は飲むのが好きで 酒呑みすぎて死んだ」と唄われていた。

その唄通りに、竹のお大尽は散歩の途中で、神社のさい銭箱を抱きかかえて息絶えていた。まさに子守唄のままの死に様であった。これを知って激怒したのが梅のお大尽だった。梅のお大尽はボディガードとして探偵を雇い、矢鱈放言を見つけ出して村から叩きだしてやると息巻いたのだ。
探偵は村の入口である鬼首峠で、おりんと名乗る白髪の老婆にあった。おりんの話を梅のお大尽にすると、それまで尊大で粗野だった梅のお大尽の態度が俄かに変り、ボディガードはやめておりんの正体を探れというのだ。
翌日から探偵はおりんの正体を探るべく、村内をうろついたが成果は上がらず、そのうちに連続殺人事件が発生した。まず最初に死んだのは梅のお大尽ではなく、獄門寺の住職了念和尚だった。了念は酒の中に仕込まれた和尚殺しという毒草で殺されたのだった。
続いて村の医師の本田が庭の柿の木に首をくくりつけられて殺され、錠前屋という屋号の洋品店の主人が行方不明になった。村の古老によれば、子守唄のは続きがあって医者も錠前屋も死ぬという歌詞があるそうだ…
八鹿村、鬼首峠、子守唄、おりん、獄門寺、錠前屋、探偵キンダイチなどのほか、病院坂、鬼火橋、キが違うなどが満載の横溝正史本歌取りのミステリ。
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