ハムレットの殺人一首

山梨県のある村のさらに奥に位置する山王地区。戸数50戸に満たない、この地区は何百年も前から山王家が実質的に支配してきた。
その山王地区に2人の人間がやってきた。一人は舞台俳優多岐一太郎で、もう一人は女性ばかりの探偵社に勤める駆け出し女探偵鯉沼香代子。
現在の山王家の当主は若い山王未知雄で、東京で舞台俳優をやっていた。それが父の死で山王家を継ぐことになり、俳優を辞めて山王地区に引っ込んだのだった。一太郎がやって来たのは休暇を過ごすことと、何かと苦労が多い未知雄を励ますためであった。
一方香代子の方は完全に仕事であった。香代子の勤める探偵事務所に大道寺慎太郎という男が訪れ、父の大道寺泰作を捜して欲しいと依頼してきたのだ。
泰作は大会社の社長で、山王地区が故郷であった。やり手の経営者であったが、最近は山王地区にゴルフ場を造成することを決め、周辺の土地を買い占めているらしい。
山奥過ぎて商売にならないのは目に見えているのに、なぜか周囲の反対を押し切って強引に開発を進めていた。その秦作が突然に行方をくらましたのだという。
慎太郎の勘では秦作は故郷でもある山王にいるらしいが、秦作は若い頃に山王から追い出されるように身一つで東京に出ているので、山王でも変装しているだろうというのだった。

一太郎と香代子が泊まるのは山王家であった。旅館もなく、ほかに泊まれるような家もないから、これは当然であった。その最初の夜から山王家には次々と百人一首の札が届いた。
届いたというより、庭の梅の木に吊り下げられていたり、湯飲みの中に入れられていたりしたのだ。山王地区では昔から百人一首が最大の娯楽で、毎年大会も行われているという。
のちにわかったことだが、秦作が村を追われたのも、百人一首の大会で不正を働いたのが原因であった。秦作の行方不明と次々届く百人一首の札…そしてついに事件が起きた。
山王の一族で鍵屋と呼ばれる初老の男が、バネ仕掛けの巨大な罠にかかって木に逆さ吊りにされて死んでいるのが見つかったのだ。そして、その側には百人一首の札があった。
島田荘司と新本格作家のメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -