扉は閉ざされたまま

この作品は倒叙ミステリで、最初の描写は伏見亮輔が大学時代の同窓生新山和宏を殺す場面から始まる。伏見も新山も大学の軽音楽部に所属し、さらにその中でアル中分科会と呼ばれる、酒好きの部内サークルに入っていた。
アル中分科会などもちろん正式なサークルではなく、部内の酒好きがたんに集まっただけだが、それだけに仲も良かった。安東章吾、上田五月、大倉礼子、石丸孝平そして部外から礼子の妹の碓氷優佳が伏見と新山以外のメンバーだった。
卒業後、それぞれに道は分かれ大半の人間は東京周辺にいたが、新山は故郷の北海道、石丸は福岡の大学に勤めていた。そのために仲の良かったメンバーも会う機会はほとんどなかったが、安東の提案で同窓会が開かれることになった。
というのは東京の成城でペンションを経営していた安東の兄が体調を崩し、ペンションを休業、その間の掃除や家の風通しを安東に頼み、安東はいい機会だからと皆を招待したのだった。
安東家は資産家で成城に屋敷をもっていたが、今は安東の兄が相続したうえ、大きすぎる屋敷を改造して6部屋を客室にし、ハイソな気分を味わえるペンションにしてしまった。
安東の兄は有名なフランス料理のシェフでもあり、それもあってペンションは大人気、休む間もなくなって体調を崩したというわけであった。
そういう事情だから宿泊費はただ、皆は人気にペンションに泊まれるのだから否応なく喜び、全員が昼食前に揃った。ステーキの昼食を済ませ、皆で分担して掃除をし、それが終わったのが午後4時。

夕食は6時から鍋を囲むことにして、それまではそれぞれの居室に入って自由に過ごすことにした。メンバーで唯一の喫煙者である新山と少し前に煙草をやめた伏見は、喫煙者専用の離れの2室を宛がわれた。
その前に伏見は新山に薬を与えた。市販の睡眠促進剤。花粉症で苦しむ新山によく効く薬として進めたのだ。製薬会社に勤務する伏見自身も愛用し、同じ薬をやはり花粉症の安東も飲んだから、新山も何の疑いもなく飲んだ。
もちろん、これも伏見の計画の一部で、新山が愛用している鼻炎薬と併用すればたちまち眠ってしまうことを知っていたのだった。新山は伏見と離れの部屋の前で別れる時も、すでにあくびを連発していた。
しばらくして伏見は新山の部屋の侵入した。案の定、鍵は掛っていなかった。そして新山は死んだようにベッドで寝ていた。伏見は浴槽に湯をため、新山を裸にして担ぎあげて風呂に漬け、頭を押さえて溺死させた。
新山は掃除で汗をかき風呂に入っているうちに睡眠促進剤の効果で急速に眠くなり、そのまま眠ってしまって溺死したというのが伏見の筋書きだった。
ただひとつ、伏見はすぐに新山の死体を発見されては困る事情があった。そのために新山を溺死させた後、ドアストッパーを利用してドアを外から開かないようにした。
やがて6時になった。新山は当然やってこなかった。皆は新山が睡眠導入剤の影響で自室で眠りこけたんだろうと考えて、先に食事を始めたが…
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