月の扉

7月16日20時、那覇空港発羽田行き琉球航空8便が、離陸しようとする寸前に3人の男女、柿崎修、真壁陽介、村上聡美にハイジャックされた。
3人は近くにいた幼児を奪い、巧妙に隠し持った刃物を幼児たちに突きつけて人質にし、乗員乗客の行動を制した。3人は直ちにチーフパーサーと機長を通じて管制官に要求を伝える。
それは沖縄県警に略取誘拐の疑いで逮捕されている石嶺孝志を22時半までに空港に連れて来いというものであった。
その要求には交渉には一切応じないこと、21時半に警察の意志を確認すること、そしてあくまで連れてくるだけであって釈放を要求しているのではないことが付け加えられていた。
石嶺は座間味島で不登校児のためのキャンプを主宰する人物で、柿崎ら3人はそこのスタッフであった。3人とも石嶺を師匠と呼んで慕っていた。
石嶺はカリスマ性を持った人物でキャンプに参加した不登校児たちは1週間もすると見違えるようになり、元気に社会に出て行った。
そのためスタッフをはじめ、キャンプに来て立ち直った不登校児たちからも尊敬され慕われていた。その石嶺が誘拐で逮捕され関係者は衝撃を受けた。
その逮捕自体も不当逮捕に近いもので、県警内部からも疑問が出ているほどだった。キャンプに子供を送り込んだ父親に対して、別居している仲の悪い母親が石嶺と父親を誘拐だと騒いで訴えたのだ。

おりから2週間後に国際会議が行われる沖縄は、全国から警察官が招集されて厳戒態勢にあった。那覇空港は直ちに閉鎖されて、警備責任者のもとに関係者が集まり仲宗根県警本部長に招請がかけられた。
警察側では交渉で引き伸ばしを図り、犯人が疲れたところで強攻策を取るとの方針のもと、無線で犯人との交渉を呼びかけるが一切無視される。石嶺の連行を21時半に確約しなければ人質1人を殺害するというのだ。
これを警察側は脅しととった。警察の方針は石嶺の連行は約束するが、手続き上22時半には間に合わないという回答をする、というものであった。
一方、柿崎ら3人にジャックされた機内では殺人事件が起きていた。ジャックして少し経ち畿内が落ち着きだし、一人の女がトイレに立った。その女は水沢麻里、沖縄出身の歌手で、彼女もまた石嶺のキャンプ出身であった。
麻里は当然3人とも知り合いであり、会話も交わしたがハイジャックには当然関わっていなかった。麻里がトイレを済ませ席に戻ると、それから少しして別の女がトイレに入った。
その女は村上聡美が人質にしている幼児の母親だった。母親は村上聡美に憎悪の目を向けトイレに入る。だがそこからはついに出てこなかった。次の乗客がトイレのドアを開けると、そこには血まみれになったその母親が倒れ死んでいた。
トイレは当然ハイジャック犯人の監視下にあり、母親が入ったのちも不審なことはなかった。死体は右手首をカッターナイフで切られ、自殺と考えられないこともなかったが殺人と考えたほうが疑問が少なかった。
ただ誰がどうやってハイジャックされた機内という極限状態の中で、殺人を行なったかが最大の謎であった。
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