金雀枝荘の殺人

春にはあたり一面が金雀枝(えにしだ)の花におおわれる田宮家の屋敷、金雀枝荘。この屋敷では70年以上前の大正11年の夏、悲惨な事件が起きた。
屋敷の持主の田宮弥三郎が中に入ろうとすると、ドアも窓も中から錠が下ろされていた。管理人夫婦がいるはずだが応答はなく、代わりに赤ん坊の泣き声が聞こえていた。
仕方がないので上げ下げ窓を破って入ろうとすると、その窓の桟が中から釘付けのされていた。ただ事ではないと弥三郎は警察に連絡し、駆けつけた警官とともに屋敷に入った。
最初に発見されたのは管理人直吉の妻のお玉であった。食堂のテーブルにうつぶせになって死んでおり、死因はのちに青酸カリによる毒殺とされた。
直吉は玄関脇の書庫で首を吊っていた。直吉のズボンのポケットからは青酸カリの瓶が見つかった。そして直吉夫婦の部屋の押入れから、細紐で絞殺された7歳の娘の瑞江が見つかった。
親子の死体は死後丸一日経過しており、夫婦の部屋では7ヶ月になる栄吉という赤ん坊だけが、布団の上で弱々しい泣き声をあげていた。
そして屋敷の全ての窓の桟には、開かないように太い釘が打ち付けられていた。警察では何かの理由で、直吉が妻子を道連れに心中を図ったと断定した。

直吉の事件から70年近くが経った冬、クリスマスを前に久しぶりに金雀枝荘は賑わった。金雀枝荘は田宮弥三郎の別邸で、本宅は松江にあり、普段は管理人だけが常駐していた。
その日、十数年ぶりに弥三郎の曾孫たちの何人かが集まったのだ。絵李沙、真理以、由宇璃、世範、薫の5人の若者と管理人の曾根源次の6人がクリスマスの前々夜23日の夜を過ごした。
だが、翌朝のこりの曾孫乙彦、杏那、類の3人が遅れて訪れてみるとドアも窓も中から錠が下ろされていた。しかも上げ下げ窓の桟は、すべて中から釘付けにされていた。
警察が呼ばれ中に入ってみると、中からは6人の死体が見つかった。由宇璃は胸に細身のナイフを突きたてられて書斎のテーブルの下にいた。
真理以は寝室のベッドの中で首に革のベルトを巻きつけられていた。薫は応接室の暖炉に突っ込まれ、そばには血のついた火掻き棒が転がっていた。
管理人曾根源次は台所のテーブルで死んでいて、側には青酸カリの入ったコーヒーカップが転がり、屋根裏の衣装戸棚の中で喉を真一文字に切られた絵李紗が見つかった。
世範は裸で浴槽の中で溺死し、その顔には洗面器が乗せられていた。グリム童話の「狼と七ひきの子やぎ」の見立てにほかならなかった。
この事件はセンセーショナルに報道され、田宮一族はマスコミの格好の標的になったが、事件は迷宮入りの様相だった。そのほとぼりが冷めた頃、乙彦、杏那、類ともう一人の曾孫冬摩は、警察も見放した謎を解明するべく金雀枝荘を訪れた。
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