はやく名探偵になりたい

雑誌「ジャーロ」掲載の4篇と新本格推理特別編掲載の1篇で編集。
藤枝邸の完全なる密室
烏賊川市郊外の山の中にポツンと建つのは藤枝喜一郎の屋敷。喜一郎はイカ釣り漁船の乗組員から一代で巨万の富を築いた男で、毀誉褒貶の激しい人物だった。桜の季節なのにものすごく寒く、雨の降る夜にその屋敷を訪れたのは甥の藤枝修作だった。
修作は喜一郎のたった一人の身寄りで、喜一郎からも可愛がられ、遺産の相続人でもあった。だが最近、喜一郎が遺言の書き換えを検討しているというのだ。危機感を感じた修作は喜一郎を殺すことにした。
その計画とは、喜一郎を酒に酔わせて寝込んだところを首吊り自殺に見せかけて殺すのだ。その場所は喜一郎自慢の地下のオーディオルーム。そこのドアチェーンに細工をして密室内での首吊りに見せかけようという作戦だった。

時速四十キロの密室
探偵事務所の所長鵜飼杜夫とその助手戸村流平は、依頼された尾行をしていた。建設会社社長の小山田幸助から、若妻恭子の浮気の証拠をつかむよう依頼されていたからだった。
恭子はその夜、海岸近くの貸別荘に向った。そこが浮気相手との密会場所であることは間違いなかった。鵜飼は表を、戸村は裏口を見張る。見張り続けること5時間、裏口に運送会社のトラックがついた。
トラックから2人の人物が降り貸別荘の中に入る。暫くして2人は重そうに箱型ベンチを持って出てきた。低い背もたれのついた2人掛けのベンチで、座面の下は物入れになっている。おそらく浮気相手がその中に隠れていることは間違いなかった。
そこで戸村がトラックを尾行することになった。トラックは海岸通りに出て市街地に向けて走る。この道路は片側が崖、もう一方が海で、途中にわき道もない道路だった。
しかも深夜のことで車はなく尾行は楽だったし、トラックも時速40km程度しか出さなかった。戸村は125ccのバイクで50mほど後をぴったりと追走した。
7kmほど走ってやっと市街地に入ったが、その最初の信号で戸村のバイクはトラックに追突し、戸村は大きく跳ねあげられてトラックの荷台に落ちた。
運転席から2人の人物がすぐに降りて来た。戸村はかすり傷程度だったが、トラックの荷台は血だらけだった。箱形ベンチの中で男が喉を掻き切られて死んでいたのだ。
男は恭子の浮気相手で、箱形ベンチに入った時は生きていたのは間違いない。トラックが出るときにもベンチの中から声をかけたというから、その時点でも生きていた。
男の入った箱形ベンチは、その後は幌もないもない荷台の上に晒され、それをすぐ後ろに着いた戸村がバイクの上からずっと見ていた。にもかかわらず殺されてしまったのだった。

七つのビールケースの問題
夢見台はかつては人気の住宅地であったが、造成から40年たった今は、さびれてしまい、高齢者と老朽化した建物と狭い道路の町になってしまった。幸川に沿って夢見通りという道が走り、そこから川と反対側に何本かの路地が出ているのが夢見台の基本型だった。
その夢見台に住む田所誠太郎という老人から、飼い猫を捜すよう依頼を受けた鵜飼探偵だが、行ってみると田所老人は留守。仕方なく戻ろうとして、ついでに路地の角で見かけた酒屋でビールを買ったのだが、そこで不思議な話を聞いた。
昨夜あったはずのビールの空きケース7つが行方不明なのだという。これを聞いた鵜飼は、俄然消えたケースに興味を持った。しかも昨夜は酔っ払いが騒いで、ガラスを割られた家や酔っ払い運転の車にひき逃げされた人間がいたりと騒ぎが頻発していた

雀の森の異常な夜
鵜飼探偵事務所助手戸村流平は深夜、雀の森で西園寺絵里と一緒にいた。絵里から相談事があるからと呼び出されたのだ。絵里は烏賊川市銘菓として有名な「すずめ饅頭」を製造する老舗和菓子屋雀家の一人娘だった。
その絵里がなぜ流平を誘ったかといえば、絵里の叔父にあたる西園寺圭介の友人であったからだった。さて2人が森の中にいると、懐中電灯の明かりが近づいてきた。2人は慌てて頭を低くして隠れる。その前を中肉中背の髪の短い男が車椅子を押して猛スピードで海に向かっていった。
その車椅子に乗っていた人物を見て絵里がおじいちゃんとつぶやく。なんと雀家の会長の庄三氏だったのだ。それから少しして再び懐中電灯の明かり。今度は空の車椅子を同じ男が押して、隠れている2人の前を通って行く。庄三氏は男に海に投げ入れられ殺されたとしか思えなかった。

宝石泥棒と母の悲しみ
花見小路家の屋敷でルビーの原石が盗まれた。犯人は夜中、金庫から原石を盗み出したものの、大きな音を立ててしまい、かろうじて現場から立ち去った。しかし屋敷の周囲には雪が降り積もり、犯人は外部に出た形跡はない。
したがって犯人は内部にいたもの、花見小路家当主一馬、孫の楓、運転手の小松、親戚の溝口勇作の4人だが、実質的には小松か溝口のどちらかだ。だが2人の部屋を調べてもルビーは見つからない。そこで呼ばれたのが鵜飼探偵だった。


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