完全犯罪に猫は何匹必要か?

探偵鵜飼杜夫のもとを訪れたのは、烏賊川市の回転寿司チェーン招き寿司のオーナー豪徳寺豊蔵。
豊蔵は招き猫狂として知られた人物であったが、探偵への依頼は行方不明になった三毛猫ミケ子を探し出してくれというものだった。
豊蔵はごく一部の人間だけしか知らない鵜飼の名探偵としての評判を、過去の依頼者から聞いてやって来たのだった。交渉の結果、成功報酬は120万円。三毛猫一匹の捜索にしては破格の金額であった。
探偵事務所の家賃も滞っていた鵜飼は、助手の戸村流平を使って三毛猫捕獲作戦を展開し、もっともミケ子に似た猫を豊蔵のもとに持っていくが、豊蔵はミケ子であることを否定した。
豊蔵は招き猫のマニアであり、猫そのものには興味がなかったのだが、10年程前にどこかからミケ子を手に入れて以来、ミケ子だけは以上に可愛がり、家族のものにすらミケ子を抱かせないほど可愛がっていた。
そのミケ子が行方不明になり、何とかして探し出したかったようだ。鵜飼たちはミケ子によく似た猫を豊蔵に押し付けて、報酬を得ようと企んだのだが、ものの見事に失敗に終わったというわけだった。
そして鵜飼たちの企みが失敗に終わったあと、豊蔵が殺されるという事件が起こった。豊蔵は烏賊川市内に広大な敷地を持つ屋敷に住んでいた。
屋敷の表門には大人の背丈くらいの、裏門には子供背丈くらいの、それぞれマネキンの招き猫が左右一対、門松のように飾られていた。それが烏賊川市の名物のようにもなっていた。

その豊蔵の屋敷の裏手は広い空地になっていたが、そこにあまり大きくはないビニールハウスが建っていた。
そのビニールハウスの一方の出入口の外には、正門に置かれていたマネキンの招き猫が放り出されるように置かれ、もう出入口の内側には豊蔵の長女真紀が気絶させられて紐で出入口に繋がれていた。
真紀のからだが内側から出入口を押さえ込む形になっていて、そのために外からビニールハウスを開けることは不可能だった。もう一方の出入口は招き猫で塞がれていたが、戸は全開に近い状態であった。
豊蔵の死体があったのは、そのビニールハウスの中であった。真紀は気絶させられただけで命に別状はなかった。真紀の証言によると、真紀は手紙でビニールハウスに呼び寄せられ、ビニールハウスに入った途端に薬を嗅がされ気絶した。
それが午後11時。その後、いったん目覚めたが、そのときに猫の面を被った人物が豊蔵を殺そうとしていた。そのときには反対側の出入口に招き猫があるのが見えた。
その時間はわからないが、すぐに犯人に再び薬を嗅がされて気絶し、翌朝助け出されるまで眠らされていた。これが真紀の証言だった。
また、目撃者によると招き猫がビニールハウスの出入口に放置されたのは、夜の12時頃のことであった。死亡推定時刻は昨夜11時から今朝の1時。よって犯行時刻は深夜12時から1時の1時間とされた。
豊蔵をよく知る家族や知人の犯行との見方が有力であったが、犯行時間が深夜であるにもかかわらず、そのほとんどにアリバイが成立した。
そして、もう一つ奇妙なのは10年程前に豊蔵の主治医であった医師矢島洋一郎が、同じビニールハウスの中で殺されていたことだった。この事件はその後迷宮入りになり、犯人は挙がっていなかった。
10年前の事件とそっくりな今回の事件、両者の間にはどんな繋がりがあるのだろうか…
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