暗黒館の殺人

九州中部、熊本県の山深い森の中にひっそりと隠れるように小さな湖の影見湖がある。その湖の浮んだ小島に、暗黒館があった。なぜ、そんな山奥の湖の島に、その館が建てられたのか、詳しい事情を知るものはほとんどいなかった。
その館の初代当主は浦登玄遥といい、政界や財界にも発言力を持つ大資産家であった。玄遥はこの付近一帯の山林を買収すると暗黒館に終日閉じこもり、人前に姿を見せず、人を招くこともしなかった。
その後、玄遥の血筋を引く者たちが代々暗黒館に住み続けていたが、館への入口である百目木峠を越えることは、いつしか地元の村でも禁忌になった。
地元の村では百目木峠の向こうの森の中には良くない者が棲み、そこを訪れる者には必ず恐ろしい災難が降りかかると伝えられていた。

その百目木峠を越えて一台のレンタカーが暗黒館を目指していた。熊本の山奥に暗黒館という謎の館があり、しかもその館を建てたのが建築家中村青司と聞くと、編集者江南はいても経ってもいられなくなり、車を走らせていたのだった。
百目木峠は霧が深くて道にも迷い、なんとか峠を越えたものの激しい地震にあって車は道をそれ、ブナの大木に衝突して大破し、江南は負傷した体を引きずって影見湖畔たどり着いた。
そこに置いてあったボートに乗り島の上陸したが、そこに建つのは文字通り光沢のない黒一色に塗られた疑洋風の建物だった。いくつかの棟に分れ、それぞれが通路で結ばれているようだった。
江南は誘われるように敷地内に建つ塔に登った。それはほとんど無意識に近い行動で、江南の中に塔に対してかすかな記憶があったからかもしれなかった。
塔の頂上に建ちバルコニー越しに暗黒館を眺め、その館の窓の一つに人影を認めた瞬間、再び地震が襲った。その自身で江南は塔の頂上から地上に落ちてしまう。

一方、浦登一族が暮らす暗黒館には建築科の学生中也が、当主の浦登柳士郎の息子玄児により招かれて滞在していた。中也は東京で玄児の運転する自転車と接触して転倒し、それがもとで記憶を失ったしまっていた。
だから中也というのも玄児がつけた名前で、本当の名前は昼夜自身も思い出さなかった。暫く入院していたのだが、記憶が一時的に喪失している状態であり、日常生活には支障がないということで退院し、玄児に招かれたのだった。
地元の村人たちが、訪れると災難が降りかかる怖れる暗黒館には、招かれた客の中也とまねからざる人物の江南の2人が加わったのだ。
はたして2人の身には災難が降りかかるのだろうか。みれば浦登一族のものたちは早老症という病気に罹り9歳にして老人のようになった子供やシャム双生児の双子の姉妹、世捨て人のような女等々変わった者達が多く、使用人の中にも黒衣の謎の老人など得体の知れない者がいた。
そして事件を暗示するように嵐が襲い、雨が降り続き雷鳴が鳴り渡るのだった。しかも嵐の夜、初代玄遥の亡き妻ダリアを偲ぶ「ダリアの宴」が催されるという。その宴には部外者であったが、特に中也も招待されたのだった…
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