殉教カテリナ車輪

第9回鮎川哲也賞受賞作品。
1997年春、新潟県にある井摩井美術館の事務職員井村正吾は、学芸員の矢部直樹から不思議な話を聞いた。2年前の夏に行われた新潟作家の軌跡という展覧会に出品された作品の中に、東条寺桂というほとんど無名の画家があった。
その作品S嬢のモデルが直樹の妻に非常によく似ていたことから、直樹は東条寺桂という画家に興味を持ち、その跡を追い掛けることにした。東条寺は団体にも所属せず、有名な展覧会での受賞歴もなく、絵もほとんど売れていない画家で、1981年に38歳の若さで死んでいた。その死は自殺とされていた。自宅の納屋の中で首を吊って死んでいたのだ。
直樹は桂の妻良子を訪ね、そこから桂が個展を開いたときに絵を購入していた歯科医の河野勝明と画材店経営の良経介、それに桂の継母豪佐世子を順に尋ねて、桂の絵を見ながら桂のことを訪ねた。河野は桂の従兄弟であり、良は父親が桂の継父の豪徳二と親友であったこととが桂との縁であった。
2人とも桂の絵を評価したわけではなく、義理で絵を購入していたのだった。2人は桂のことも性格は暗く、晩年は部屋に閉じこもって絵ばかり狂ったように描いていたと言った。さらに探訪の過程で、桂たちが1976年に起きた豪徳二と佐野美香の二重密室殺人事件に巻き込まれていたことを知った。

その事件は冬、雪の積もった豪徳二の家で起きた。豪徳二は桂の母親と再婚した男で、桂には継父にあたる。桂の実母が死んだあと、徳二は佐世子と再婚したのだった。だから桂と戸籍上の両親である徳二、佐世子とは血のつながりがなかった。
事件は徳二の還暦祝いのパーティの後に発生した。パーティに出席したのは桂や河野とその妻、良、それに徳二の愛人で若手の画家佐野美香だった。パーティが終わり徳二は風呂に入ったが、数分後に風呂場から悲鳴が聞こえた。
風呂の戸には中から閂が掛けられており、それを破って入ってみると浴槽の中で徳二が刺殺されていた。風呂の窓にも中から錠が掛けられていた。その直後、今度は2階から女の悲鳴が上がる。位置はちょうど風呂場の真上であった。
駆けつけてみると、その部屋の中で佐野美香が喉にナイフを突き立てられて絶命寸前であった。ただちに救急車が呼ばれたが、美香は病院に着く前に死亡した。美香の部屋はやはりドアに閂がかかっていた。窓は開いていたが、外につもった雪の上には足跡一つなかった。しかも奇妙なことに、美香の喉を貫いていたナイフには、徳二の血が付いていた。徳二と美香は同じ凶器で2分ほどの間をおいて刺し殺されたのだった。
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