少女探偵は帝都を駆ける

「殺人喜劇のモダン・シティ」で活躍する平田鶴子と仮名文字新聞の新米記者宇留木昌介のコンビが、昭和初期の大阪と東京をまたにかけて遭遇する謎の連続。
名探偵エノケン氏
大阪劇場で公演することになったエノケン一座のリハーサルを見に入った平田鶴子と仮名文字新聞大阪支局の宇留木昌介記者の2人。
舞台上では東京での人気演目「民謡六大学」のリハーサルが進んでいたが、突然劇場の2階席に仮面を被った怪人物が現れたことで大騒ぎになった。
エノケンが身のこなしも鮮やかに脚立を立てていきなり駆けあがって2階席に飛び移ると、怪人物はピストルをエノケンに向けた。脚立は既に倒れてしまっていたし、他の人々はエノケンのように身が軽くないので、客席の扉から出て大周りに2階に駆けつけた。
怪人物とエノケンの動きは早く、そのころにはエノケンは気絶させられて怪人物の肩に担がれ非常梯子を降りていく姿が窓越しに人々の目に映った。今度は人々は大慌てで劇場の外に出た。
すると怪人物は気絶したエノケンとともに、エノケンの自動車を奪って逃走した。そこに車で通りかかったのが鶴子の父の旗太郎。鶴子と宇留木記者は旗太郎から車を奪うように借りるとエノケン達の乗った車を追いかけた。
エノケン達の車ははるか先を行くが、見失うことはなかった。やがて2台の車が郊外に差し掛かった夕暮れ、先を行くエノケン達の車が土手に乗り上げて停まった。
続いて停まった鶴子たちの車から2人が駆けつけると、前の車にの後部座席に手錠をかけられて猿轡をされたエノケンがいただけで、怪人物は消えうせていた。

路地裏のフルコース
学校帰りの平田鶴子が、自宅近くの大人ひとりがやっと通れるくらいの袋小路の路地で見たのは、テーブルクロスがかけられたテーブルに並ぶフルコースの料理だった。しかし一度家に入り着替えもそこそこに戻ってみると、それらはすっかり消え去っていた。
鶴子の頭の中ではフルコースに添えられたババロアが赤、青、白、黒、黄色の五色に色分けされていたのが強く頭に残っていたが、いったい誰が何の目的でそんなことをしたのだろ。
鶴子は宇留木記者に相談をしたが、これという考えが浮かばなかったが、次の日曜日に満州国皇帝が来阪したときに、街に翻る満州国旗を見て鶴子も宇留木も唖然とした。
ババロアの色分けは満州国旗そのものだったのだ。来阪の満州国皇帝に対して何かが行われるのはほぼ間違いなかったが…

78回転の密室
売り出し中の若手漫才師模談亭ラジオ・キネマの2人はレコード録音に臨んだ。当時のことゆえ、まだ蝋盤を使った機械式の録音で、密閉された録音室の中にあるラッパ管に向かって交互に喋る。
その録音室で2人が録音を始めて暫くして突然ラジオが叫びだした。何事ならんと録音技師や2人の取材がてら録音に同席していた仮名文字新聞の宇留木昌介記者が録音室に駆けつけると、そこには胸から血を流したキネマが倒れていた。
2人しかいない密室での出来事ということでラジオが真っ先に疑われたが、キネマの死因が銃創ということがわかると俄然事件は不可能犯罪となった。拳銃はラジオの体はおろか部屋のどこからも見つからなかったのだ…

テレヴィジョンは見た
真名部理工学研究所では、間名部文蔵博士が助手の花村工学士とともに、総天然色のテレヴィジョンの研究開発を行っていた。資金は蒲生電機製作所社長の蒲生善之助が援助していた。
その日に研究所を訪れた善之助は機嫌が悪く、間名部博士の研究が遅々として進まないことにいら立ち、ついには資金援助の打ち切りをちらつかせた。
間名部博士の方は怒りを抑えながら、そこまで言うのならということで、実際に研究成果を見せるために善之助を受像機室に案内した。しばらくすると受像機室からは銃声が聞こえた。
花村工学士や博士の妻の倭文子、銃声を聞きつけて外から入ってきた善之助の運転手大辻らが受像機室の前に集まった。しかし受像機室は内側から鍵がかけられていた。
鍵はひとつしかなく、その鍵のありかも不明であった。仕方なくドアを破って入ると受像機の前に銃弾に倒れた善之助の死体があり、そばには銃が落ちていた。
博士の姿はなかったが、受像機には博士の顔が大きく映っていた。受像機に映る映像は別室の送像機室から送られてくるという。
博士は送像機室から自分の画像を送り、それを受像機に移した出して研究成果として善之助に見せていたのだった。受像機室に唯一の鍵は善之助の死体の下から発見された。完全な密室での事件に警察は自殺の判断を示したが…

消えた円団治
桂円団治はラジオ局のスタジオで落語をやっているところを暴漢に襲われ、ピストルで撃たれた。弾は狙いあやまたずに円団治の胸に命中し、さらに貫通して羽織の背中に穴をあけ、スタジオの壁に突き刺さった。
だがその直後に奇怪な現象が起きた。円団治の肉体は羽織だけを残してスタジオから消え、壁をいくつか通り抜けて屋外に出た。さらに夜の空に舞い上がり、街々の頭上を通過し電線に引っ掛かり、電柱からぶら下がった状態で発見された。
正確には暴漢がスタジオに乱入したのは、円団治がちょうどサゲを言い終わったときで、円団治はとっさに脱いだ羽織を暴漢に投げつけたのだった。
スタジオ内には放送員が立ち会い、ガラス越しに調整室には2人の放送員と逓信省の管理課長が立ち会っていたが、その人達は羽織で一瞬円団治の姿を見失い、その直後に円団治は消えてしまっていたのだ。
暴漢も現場から逃げたが、いったい円団治は電柱で死体となって発見されるまでどうしていたのだろうか…

ヒーロー虚空に死す
大大阪キネマはその名とは裏腹に零細なプロダクションで、檀原隼人が一人で支えていた。監督であり主演俳優でもあった檀原隼人はスポーツ万能であり、危険な演技もいとわずに行った。
高い所から飛び降りたり、ビルの外壁を這い上ったり、走る車にしがみついたりとその演技はエスカレートし、それと比例して場末の小屋の観客を始めとする隠れファンも増えていった。
その檀原隼人が新作で見せる演技は川べりのビルの屋上から対岸のビルの屋上に渡したワイヤを渡るというもの。強引に警察の許可を取り、撮影は大阪市内の土佐堀川を挟んで行われた。
つまりワイヤで土佐堀川を渡るのである。撮影の日、鶴子と宇留木記者はビルの屋上で見学をしていた。撮影が始まると檀原隼人は屋上に作られた張りぼての時計塔の陰に潜んだ。やがてそこから白煙が上がる。
時計塔に監禁され、爆破される寸前に逃げ出したという設定だった。やがて時計塔の裏からワイヤにつり下がった檀原隼人が滑り出した。
しかし川の中ほどまで来ると背後から見えない人物に肩を掴まれたように静止し、そのまま川に落ちて行った。はじめての事故だった。すぐに警察に連絡され川が捜索されたが檀原隼人は発見されなかった。
翌日になって檀原隼人の死体が河口付近で見つかった。その死体の背中にはナイフが刺さり、水は飲んでいなかった。檀原隼人はビルの屋上から滑空を開始し、途中で何者かに背中を刺され、そのまま川に転落したとしか思えなかった。

少女探偵は帝都を駆ける
昭和11年5月、平田鶴子ら大阪府立芝蘭高等女学校第5学年の180名は、特別列車で大阪駅を発ち、関東から東北・北陸を周遊する8泊9日の修学旅行に行った。
列車が豊橋駅に差し掛かる頃に、隣の線路を特急列車が並走したが、その最後尾の展望車のデッキで列車ボーイとルパシカを着た大男が争っていた。その様子を鶴子とその向かいに座っている家族の娘の中久世美禰子が見ていた。
すぐに列車は豊橋駅に停まり、向かいのホームには特急列車が停まっていた。特急列車からは先ほどのボーイと大男、それに大男の手下の2名が相次いで降りてきた。
大男たち3名は明らかにボーイのことを捜していた。ボーイは鶴子達の乗った特別列車に近づいてきたようだ。それを追って大男達もやってきたが、そこで引率の教師に大男達は追い返された。
一方列車ボーイは生徒の一人に匿われたが、その後走り出した列車から飛び降りてしまった。匿った生徒によれば列車ボーイは女の変装だった。
その後、鎌倉、東京と鶴子達の周囲に列車ボーイに化けていた女とそれを追う大男達が現れる。鶴子たちは列車ボーイの化けた女を助け、ついには制服を着せて同一行動を取らせるようになった。
そんなとき東京で鶴子は出張中の宇留木記者にあった。宇留木によると蒙古の王族と高貴な出の娘が秘密理に結婚するのだが、それに反対する勢力がなりふり構わず妨害を始めたらしいということだった。
しかもその高貴な出の娘は芝蘭高等女学校第5学年にいるという。第5学年で最も高貴な出といえば中久世美禰子であったが…


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