妃は船を沈める

火村と有栖の物語で、中編猿の左手が先に書かれ、後日談として残酷な揺り籠を思いついた作者が幕間を挟んでひとつの長編にした。

深夜の大阪港の岸壁から一台の車が海に落ちた。50メートルほど離れたところで夜釣りをしていた複数人がそれを目撃しており、すぐに通報され、2時間半ほどで車は引き揚げられた。
車内から中年の男が遺体で見つかったが、解剖の結果、多量の睡眠薬が検出された。盆野和憲という名で、いろいろな事業に手を出しては失敗を繰り返し、借金が膨らんでいた。妻の古都美はエステティックサロンを経営しており、そこそこ繁盛しているが、利益は夫和憲の借金の利息に消えていた。
車の転落時、車内にいたのが和憲だけなのかどうかはわかっていなかったが、睡眠薬の量からいって和憲が運転していたとするには無理があった。しかし目撃者によれば、車が海に落ちる前に他の人間が転がり出たりしたことはないし、また転落後に怪しい人物が海から上がってきたようなことはないとのことで、殺人だとすれば、相当に泳ぎの達者な人物が運転して車を海に沈め、脱出したとしか考えられなかった。
捜査が進むにつれ、ひとりの人物が浮かんできた。古都美の大学時代の友人の三松妃沙子という女性で、和憲に4千万近い金を貸していた。妃沙子の生活は変わっていて、一代で築いた財産を若い男のために使っていた。
街で見かけた不遇の若い男を、生活面で援助するのだった。若い男たちは妃沙子を崇め、お妃様のように接した。現在、最も妃沙子に信頼され愛情を受けているのは養子縁組までした息子の潤一だった。
2人はもちろん血のつながりはなく、知り合ってからも数年しかたっていなかったが、潤一のマザコンと妃沙子の青年趣味が一致して、養子縁組して一緒に住んでいた。もし、この2人がとも思われたが車の運転ができる潤一は泳げず、泳げる妃沙子は足が悪くて車の運転ができなかった。
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