火村英生に捧げる犯罪

中篇「雷雨の庭で」から携帯有料サイト向けの掌編まで、火村と有栖が遭遇するさまざまな事件を集めた中短篇集。
長い影
堺市の外れにある廃工場から、男が逃げるように飛び出してくるのを桑原稜介が目撃したのは、午後11時20分。ちょうど妻の香澄がクラシックコンサートから帰った直後だった。稜介は足を痛めており、外出できなかったのだ。
稜介の不審な声に外を見た香澄だったが、影のようなものが工場の角を曲がるのをわずかに見ただけだった。だが心配をした香澄は、工場の持ち主に電話をかけた。
すぐに持ち主の息子が工場に来たが、そこで大変なものを発見した。男の死体だった。その男は工場の中の事務室のドアのノブにロープをかけて縊死していた。しかも口はガムテープで塞がれ、両手両足は縛られていた。死亡推定時刻は夜10時ごろ。おかしなことに犯人は男が死んでから1時間半も現場にいたらしい。
さらに検死、睡眠薬を飲まされていたことが判明した。警察は殺人と断定し、捜査にかかったがすぐに被害者の身元が分かった。前科があったのだ。しかもその男は16年前に、強盗殺人容疑で取り調べを受けていた。
その事件は金貸しをしていた老女の家で強盗殺人を働いたというもので、複数犯とされていたが、その男川又進一は証拠不十分で逮捕すらされなかった。警察は川又とともに16年前に取り調べられた今沢素之に目を付けた。

鸚鵡返し
ある男が殺されたが、現場の部屋にはペットの鸚鵡がいた。鸚鵡は「ハンニンハ タカウラ」と繰り返す。男は女性を巡って、ほかの男2人とトラブルになっていたが、そのうちの一人が高浦という名だった。

あるいは四風荘殺人事件
推理小説界の大御所里中泰成が他界して3ヶ月が過ぎた。里中は推理小説界の重鎮ではあったが、本格推理小説に対しては批判的で、有栖ともどこかのパーティで一度顔を合わせて挨拶を交わした程度だった。
その里中の娘から編集者経由で有栖に会いたいとのオファーがあった。訪ねてみると里中が生前書いていた本格推理小説の粗筋が見つかったというのだ。ところがそれは未完で、読んだだけでは犯人が分からない。娘の依頼は、その結末を推理してほしいというものだった。
舞台の設定は山中の邸で、円形の庭を中心に東西南北にそれぞれ建物がある。南の建物が母屋で、そこで事件の夜麻雀パーティが行われた。出席者は屋敷の女主人に2人の娘、それに著名なA、B、Cの3人の若者と警部に探偵の8人。
女主人の目的は2人の娘の結婚相手をA、B、Cの3人の中から選ぶことだった。パーティの前に雪が降りだし、15センチほど積もってやんだ。その間にマージャンを抜けたAとBが北の建物で殺されていたのである。
雪の上には母屋から東の建物、東の建物から北の建物まで不明瞭な足跡が残っていた。これが里中の書いた粗筋であった。有栖と編集者はこの粗筋を持って、英都大学の火村准教授を訪ねた。

殺意と善意の顛末
浦井が自分を解雇した社長の君津を恨んで、君津をマンションの自室で殺したのは明らかだった。君津の部屋には行ったことはないというのに、襖に不明瞭ながら浦井の指紋が付いていたのだ。結局浦井は自白したが、部屋に行っていないのは本当だった。

偽りのペア
20歳の女子大生が、自宅近くのマンションで待ち伏せしていた男に刺殺された。どうもその男とは与論島で知り合って付き合いだしたらしい。女子大生の部屋に与論島で撮ったペアルックの2人の写真がかざられていた。だが、その男がどうしても見つからないのだった。

火村英生に捧げる犯罪
大阪府警の捜査一課長宛てに送られてきた脅迫状まがいの手紙には、犯罪の予告とその犯罪が火村英生に捧げるものであることが書かれていた。ただちに火村に報告されたが、火村は入試が重なって対応できなかった。
一方その頃、有栖のもとには有栖の最新作が盗作であるとの告発の電話があった。さらに京都市内では殺人事件が発生、被害者はエステティシャンで、首を切られて、その首を自身の膝の上に乗せた猟奇的な状態であった。バラバラなこれらの出来事は、どう収束するのだろうか。

殺風景な部屋
殺された男の名は徳永繁巳といい、時代に取り残されたオフィスビルの何にも使われてない殺風景な地下室で、ナイフで胸を刺されていた。手には携帯電話を持っていたが、発信の形跡はなかった。もっとも発信しても、地下室は圏外であり、電話が通じたとも思われない。
被害者は最近携帯を買い替えたばかりで、登録先はゼロ、もともと目が悪くてメールは一切しなかったので、なんで携帯を握りしめて絶命したのかはわからない。徳永は同じビル内で信用調査会社を経営していたが社員もなく、実態は特定の人物の弱みを握って恐喝していたらしい。
事務所内を捜索した結果、同期のありそうな人物が4名浮かんだ。だが4名ともアリバイは無く、同期も様々で決め手がない。そのころ火村は豪雨でストップした新幹線に閉じ込められていた。有栖が状況を連絡したところ、火村はたちどころに犯人を言い当てた。

雷雨の庭で
神戸市内にある住宅の50坪はありそうな庭で死んでいたのは、住宅の持ち主轡田健吾。轡田は市内でタクシー会社を経営していた。前夜雷雨があり、死体の周囲はぬかるんでいたが、足跡は一切なかった。
死体は庭にある天使像のそばに転がっており、頭を強打されたことでほとんど即死、凶器は死体の周囲にはなかった。轡田は妻の幸穂との仲は冷えきっており、その夜も幸穂は大阪市内で不倫をしていた。
さらに隣に住む放送作家の早瀬琢馬とはトラブルになっていた。といっても最近の轡田は妄想壁が強く、早瀬が女性を監禁しているとか毒ガスを作っているとか思い込み、交番にまで訴えていた。
早瀬は何度も轡田に怒鳴り込まれていたが、そこは大人で適当にあしらい続けていたが、心の中では辟易していた。その早瀬には轡田が死んだ時間、パートナーとパソコンを使って打ち合わせをしていたというアリバイがあった。


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