白い兎が逃げる

火村とアリスが遭遇するさまざまな事件。いずれも100枚以上のボリュームで、中篇集といってもいい。
不在の証明
ひったくりをした梶山常雄は、その直後乗っていた自転車が子供とぶつかり転倒、あわてて戦利品のバッグをつかんで逃げ、工事現場の資材の陰に隠れた。土曜の夕暮れ時とあって周囲は静かで、梶山は財布から現金を抜出し立ち去ろうとした。
が、その時に工事現場から道路を挟んだ向かいのビルに男が入って行った。男は人気作家黒須俊也であった。その後も、喫茶店から人が出てきたり、パトカーが巡回したりと梶山は現場から立ち去るきっかけを失っていた。
そして黒須俊也が再びビルから出てきたのが20分後。黒須が去った直後に梶山も工事現場を立ち去ったが、少しして巡回中の警官に職質され逮捕されてしまった。さて、その間ビルの202号室では、男が殺された。殺されたのは黒須克也、俊也とは双子の兄弟だった。
202号室は蓑田芳江恵という女性翻訳が仕事場として借りていた。蓑田は克也とも俊也とも付き合いがあった。兄弟は普段から仲が悪いうえ、蓑田を巡っても争っていた。梶山の証言から、克也殺しは俊也によるものと疑われたが、俊也は小豆島から大阪に向かうジェットフォイルに乗っていたとアリバイを主張した。

地下室の処刑
森下刑事は非番の日に、大阪市内にある実家を訪れようとして、地下鉄の駅から出てくる指名手配犯を見つけた。小宮山連という、革命をめざす過激宗教団体シャングリラ十字軍に属する男だった。
シャングリラ十字軍は、この世の快楽すべてを憎み、あちこちに爆弾を仕掛けては無差別テロを計画していたが、警察の介入より多くの人間が逮捕されていた。一方で幹部クラスの4人が逮捕を免れ逃亡し、指名手配されていた。小宮山もその一人だった。
大物の発見に森下は尾行を開始した。が、もう少しというところでシャングリラ十字軍に捕縛され、廃ビルの地下室に監禁された。そこで森下が見たのは、組織の裏切り者の死であった。
嵯峨という裏切り者は、小宮山の拳銃で処刑されるはずだったが、処刑直前嵯峨がこの世の別れにとワインを所望した。飲みかけの赤ワインがふるまわれたが、それを一口飲んだ嵯峨は苦しみだし、死んでしまったのだ。

比類のない神々しいような瞬間
新進の女性評論家上島初音が殺された。仕事場にしている京都府長岡京市のマンションの部屋で、心臓を一突きされていた。発見者は秘書の金城直哉た、たまたま金城が路上で出会った出版社の飯星真沙子。
飯星は仕事で初音の元を訪ねたが、応答がないので引き返す途中だった。そのときに和歌山まで出かけて戻って来た金城に会ったのだ。現場には犯人の残したものと思われる拇指紋がひとつ。初音の血の付いた手を洗おうとして、うっかりして洗面台のタオル架けのパイプに付けてしまったらしい。そして初音のダイイングメッセージで、それはどう見ても1011としか見えなかった。

白い兎が逃げる
劇団ワープシアターの看板女優清水玲奈は、蜂谷と名乗るストーカーに悩まされていた。相談を受けた先輩女優の伊能真亜子は、ちょうど居合わせた脚本家の亀井名月に玲奈のボディガードを頼んだ。
亀井がボディガードの付き、玲奈の住居の周りをうろついていた蜂谷を一喝すると、蜂谷は恐れをなして退散した。ところが蜂谷も簡単にはあきらめなかった。
玲奈が友達の結婚式に出席するために名古屋に出かけたときに、玲奈は帰りの名古屋駅で蜂谷の姿を発見し、驚愕してしまった。なぜ蜂谷は玲奈の名古屋行きを知っのかと首を捻ったが、亀井が招待状にテープの跡がついているのを見つけた。
蜂谷は玲奈の住居のポストから、糸にテープを付けて郵便物を釣り上げては読んでいたらしい。そこで亀井は玲奈をしばらくの間、隔離することにした。亀井の実家がある鳥取に玲奈を避難させるのだ。
そしてそのときにちょっとしたいたずらを思いつく。玲奈を北海道の結婚式に招待する偽の手紙を出し、それを読んだ蜂谷を北海道に行かせ、きりきり舞いさせるのだ。そしてこのたくらみは見事に成功した。
蜂谷は北海道に向かうべく関西空港に行き、一方玲奈は無事に鳥取に着いた。ところが蜂谷の死体が大阪のど真ん中、難波地区の小学校の校庭にある兎小屋の裏で発見されたのだった。


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