月長石の魔犬

両親がともに西洋と東洋のハーフだったという、石細工屋店主風桜青紫。その右目は淡い水色、左目は濃い紫色、容姿も日本人離れして表現が難しかった。
大学に入ったばかりの鴇冬静流は、そんな青紫にひかれて店に出入りし、掃除や展示品の整理など店の細々したことを手伝い始めた。それはけっしてアルバイトではない。
静流は青紫と彼が加工する石細工に惹かれたのだ。だから金銭は要求しなかった。一方青紫の方には、静流は迷惑にしか映らなかった。最初は無視していたが、時がたつにつれて段々と打ち解けて来た。今では数日おきにやってくる、少し変わった女子大生という扱いだった。
ある日、静流は店に新たに並んだ球形の山形に磨きあげられた月長石に、銀色の狼がしなだれかかるように寄り添っているデザインのブローチを黙って持ち出してしまった。
魔が差したというのだろうか、このブローチに一目惚れをしたのだ。翌日、大学にそのブローチをつけて行った。そのブローチはたちまち他の女生徒の目にとまり、休息時間には人垣ができた。
そこにやってきたのは立花正美。正美はやたら先輩風を吹かす、自分勝手でわがままな女だった。正美はたちまち静流のブローチに目をつけ、それを欲しがった。
普段から正美にいい感情を持たない静流は断固として拒絶した。2人の間は険悪となり、最後には正美が強引にブローチを奪ってしまった。静流は必死で正美を追った。だが正美はその日以来行方が分からなくなった。
困った静流は青紫に事情を打ち明けた。青紫と静流はどうやって正美からブローチを取り戻すか、作戦を練り始めた。猟奇殺人事件が起きたのはそんな矢先だった。
首を切られたうえ、その首に犬の首を縫い付けられている若い女の死体が相次いで見つかったのだ。そのうちの一体の着ていた服の胸には、まさに青紫の作った狼のブローチがあった。
島田荘司と新本格作家のメインページにもどる
Mystery Collection Mainへもどる


Last modified -