カレーライスは知っていた

美少女代理探偵根津愛の事件簿。根津愛(代理)探偵事務所改題。
カレーライスは知っていた
マンションの一室で、野々村雪子という宝石店に勤務する女性の絞殺死体が発見された。同僚のひとり杉本浩美という女性が、雪子が無断欠勤したので様子を見に来たところ、玄関に鍵が掛っておらず、中に入ってみて死体を発見した。
実は前日の夜8時10分ごろ、警察に女性から救援を求める電話があり、場所を刑事が尋ねると大きな音がして電話が切られたという。電話は110番ではなく直通電話だったために、どこから架かって来たかわからず、警察では一応の警戒しかできなかった。どうもその電話が雪子からのものだったらしい。
さらに雪子は前夜8時ごろに同僚の豊田初江と電話で話をしていたが、そのときにこれからカレーを作るところだと言っていた。たしかに現場には出来上がったカレーと、カレーで汚れた皿にスプーンがあった。
これがさらに捜査を混乱させた。雪子は料理に凝っており、カレーも玉ねぎを炒めて小麦粉を練ってルーを作り、という具合だったから、とても10分でできるはずはなかったのだ。しかもカレーには雪子が嫌いなニンジンまで入っていた。ではカレーは誰が作り、誰が食べたというのか…

だって、冷え症なんだモン!
死体の主小沼志津子が身に着けていたスリッパ、手袋、イヤリングはことごとく左右がアンバランスだった。スリッパは右が室内履きで左がトイレ用、手袋は右が皮で左が毛糸、イヤリングは右が金で左が真珠。しかも死体の発見されたのは室内であった。被害者志津子は寒がりだったが、室内で手袋とは…
検死の結果は死亡推定時刻に3時間巾が出た。というのは昨夜雪の影響で1時間ほど停電があり、死体の置かれた状況がわからなかったからだ。警察の捜索の結果、現場の部屋から3枚の念書が見つかった。
いずれも志津子との婚約を反故にした慰謝料として一千万円支払うという内容で、期限は翌日に迫っていた。書いたのは松川左右吉、取違孝太郎、岸掛仁作という3人の男だった。3人とも念書の存在は認めたが、一様に犯行は否認した。アリバイも三者三様だった。
松川は停電になったときまでのアリバイはあったが以降はなく、取違は停電の間のアリバイがなかった。一方岸掛は停電が回復してから後のアリバイはあったが、それまではなかった。犯人はその3人のうちの誰かなのか、そして被害者はどうして左右アンバランスな格好をしていたのか…

スケートおじさん
凍てついた冬の朝、凍った橋を滑る中年男、そのあだ名はスケートおじさん。皮靴をはきスリーピースを着て、怒ったような顔で狭く古い凍った橋の上を滑る。登校中の近くの学校の生徒たちはそれに目を奪われたが、いったいおじさんの目的は何なのだろうか…

この「スケートおじさん」は根津愛により解決がつけられるが、あとがきの中で愛の父親信三により別の真相が語られる。さらにこの作品は初版発刊後にホームページで別解答が募集され、そのなかから2篇が選ばれ掲載されている。

コロッケの密室
畑中理佳は、男にだまされて金を貢ぎ、借金だらけでにっちもさっちもいかなくなった。仕方なく二条院梨花から金を借りた。二条院梨花は、畑中理佳の高校の同級生だったが、理佳とは生活環境がまったく正反対だった。早い話が理佳は貧乏人の娘なのに、梨花はお嬢様育ちだった。
梨花は周囲の人間が自分に奉仕するのが当たり前と思っていて、その取り巻きも多かった。理佳もその一人だったが、梨花はすぐに理佳を奴隷のように扱い始めた。高校卒業後は一時的に疎遠になったが、梨花の実家が理佳の勤める信用金庫のお得意様であることから、梨花は理佳を再び奴隷のように扱われた。
その梨花が借金の返済を理佳に迫ってきたのだ。ところが理佳には金がない。そこで理佳は梨花の持っているダイヤを盗むことにした。決行は梨花が恋人のための昼食会を催す前日。その日は明日の昼食会のための準備に理佳は呼びつけられていた。
理佳は事前になけなしの金をはたいてイミテーションのダイヤを手に入れ、梨花のマンションに向かった。そして梨花が買い物に出た隙にダイヤをすり替えたまではよかったが、出かけたはずの梨花が車の故障で戻ってきてしまい大慌て。梨花が戻ってきたときにダイヤを手に持っていたのだ。
とっさに理佳はマッシュポテトの粉の箱にダイヤを投げ込んだが、その後取り出す機会がないままに梨花のマンションから帰る羽目になった。翌日、ダイヤを取り返すために早めに梨花のマンションに行くと、マッシュポテトはすべて水でもどされ油で揚げられ、コロッケにされていた。

死への密室
宮城県警警務部の警部八木沼新太郎は、婚約者を巡るゴタゴタから学生時代の友人中澤卓郎と賭けをした。中澤の目の前で壁を通り抜けるというのだ。その約束から2ヶ月後、八木沼が壁を通り抜ける日が来た。
変ないきさつからその現場に立ち会うことになった桐野義太刑事は、愛とともにイベントの場所である仙台市郊外の八木沼の新築の自宅に向った。その八木沼邸は新築というわりには妙な具合だった。床が高かったり天井が低かったり、廊下の床もこぼこしていたり。
外回りも壁の上部が白で、下部が赤と妙な色の塗り合わせだし、門柱と扉はあるのに塀はなかったりとこちらも妙であった。庭の片隅には大きなテントが張られ、その中から僧形の八木沼が現れたのには驚いた。
八木沼邸は母屋の2階屋と別棟ともいえる平屋がドッキングしたような形で、玄関も別々についていた。母屋と平屋は内部では行き来できなかった。
八木沼は新興宗教に凝り、平屋の部分は集会所用に急遽増築したものだと言った。そして行われたのが脱出イベント。母屋の一室から平屋の方にわずか60秒で移動したのだ。
その間母屋の一室には中澤や桐野、根津愛など複数の人間がいた。ただしアイマスクを付けさせられ、シェーの格好をさせられて左足で立たされた。だが、移動は正真正銘行われた。八木沼は中澤との賭けに勝ったのだ。

納豆殺人事件
仙台市内で人気の明石焼きの店を経営する村山八美は、大阪の出身で関西至上主義の権化だった。納豆を頭から馬鹿にし、その納豆を食べる東北人を嫌っていた。それは徹底したもので、他人が納豆を食べているのを見るのすら嫌がった。
八美は数年前に仙台市内の老舗料亭の娘と結婚し、子供までいたが、納豆が原因での喧嘩が絶えなかった。ある日、妻が納豆巻きを騙して食わせたことに激怒して別居、その後離婚をした。
その八美の全裸死体が杉林の中で、山菜取りに行く途中の老人によって発見された。不思議なことに死体には全身に水をかけられた痕があり、さらに解剖の結果、八美の胃からはあれほど嫌っていた納豆が大量に検出されたのだった。


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