ベートスンの鐘楼

宮城県柴田郡黒岩町大字宮野塚字粕川二丁目の問題の家は、県道から一本奥へ入った一見廃屋のような借家だった。木造モルタルの平屋で、壁には縦横にひび割れが走り、瓦もあちこちがずれていた。
背後は竹林で、生垣のマサキも伸び放題だから、庭のある正面以外は緑に埋もれるような格好だった。門扉はなく、生垣の切れ目が入口であり、庭の大半は池だったが、その池は濁りきり水草が水面を覆っていた。
玄関にも窓にも鍵がかかっており、問題の部屋はカーテンの隙間から覗くしかなかった。その6畳の和室は、血の海だった。その中に横たわる上半身裸の男の死体。
胴体の2か所と両肘がバンドで固定され、体には網がかぶせられていた。首の部分には斧の刃があり、首そのものはなかった。窓の壁に蝶番で取り付けられた斧を使ったギロチンで首が切断されていたのだ。
そのギロチンはロープで柱に固定されていたが、そのそばには燭台が取り付けられて、蝋燭の火がロープを焼き切るとギロチンのように斧が落下して、固定されて寝ているも者の首を切断する仕掛けになっていた。
被害者は、この家に住む医師宮口剛介だった。宮口はこの近辺で最も古い総合病院の院長であり、県医師会の会長まで務めた人物だったが、3年前に経営不振から病院が人手に渡り、今では小さなクリニックを経営していた。

一方県境を越えた福島県の桑原町でも不思議な事件があった。ある老人が告別式を済ませ、斎場で火葬に付される直前に息を吹き返したのだ。棺桶の中からかすかな音がするのに遺族が気づき、炉に入れて蓋をする寸前だった棺桶を引っ張り出して蓋を開けてみると、死体が息を吹き返していた。
その桑原町の奥地にあるハリストス正教会では、土葬されたはずの死体が甦ったとしか思えない現象が起きた。櫻田善兵衛というあこぎな金融業者の遺体を入れた棺桶の上から、喪主の希望でコンクリートが流された。
善兵衛老人と喪主となるその長男善一郎は仲が悪く、善一郎は善兵衛が絶対に生き返らないように土葬した棺桶を埋めた上にコンクリートを流し込んで覆ってしまったのだ。
聞けば、善兵衛は遺言で土葬を希望し、しかも穴は浅く掘るように指示していた。善兵衛は埋葬後も生き返るかもしれないと思っていたようだ。ところがそのコンクリートまで流し込まれた死体が甦ったのだ。
埋葬した夜、まだコンクリートが固まらない時に、棺桶を引き上げて開けてみると善兵衛の遺体は消えていた。コンクリートを流し込む直前に、遺体とお別れをしたときには確かに棺桶の中にあったのだ。
それは確認されていて、その直後に棺桶は埋められ、さらにコンクリートが流し込まれたのだ。善兵衛はその後に甦り、棺桶のふたを開けて土と固まっていないコンクリートをすり抜けて、どこかに消えてしまったとしか思えなかった。
そして桑原町内で起きた2件の死者の甦りには、どうも宮口医師が関係しているらしいことが判明した。斎場から息を吹き返した人物の死亡診断をしたのは宮口医師だったし、3年前に宮口病院が経営不振になったのも善兵衛が原因だった。

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