夜宴

荒彫岳ブルーラインは、仙台市と黒岩町の間に聳える独立峰の荒彫岳を貫く、全長10.7kmの有料道路で、東北の名湯秋保温泉と山形自動車道を最短距離で結んでいた。
料金所は仙台側と黒岩側にそれぞれあり、昼間時は200円、夜間は無料開放されていた。黒岩警察署の若手刑事桐野義太は、緊急連絡を受けてブルーラインに向かっていた。
行く手には季節外れの雷雲がもくもくと発生し、いやな予感がしていた。ブルーラインに入る直前には雨が降り出し、たちまち滝のような激しい雨になった。
帰宅途中の緊急連絡のために、義太が乗っていたのは愛車のアンデス4200、人気のクロスカントリー車だった。1ヶ月ほど前に仙台市郊外の中古車屋で、びっくりするような安い値段で手に入れたものだったが、大きな事件に巻き込まれたためにまだほとんど乗っていなかった。
やがてブルーラインの料金所が現れた。雨のためか、季節的なものか、料金所の係員も暇を持て余しているようだった。料金所を通過して峠への本格的な登りになり、暫く進むと突然歩行者が目の前に現れた。若い女で、傘もささずにびしょぬれで踊っていた。
職業柄、義太は車を停めて女を保護した。後部座席に乗せた女は、しきりに暑いといって着ていた服を脱ぎだした。ルームミラーでそれを見ながら義太は不気味な想像に背筋が震えた。

そのときに前方から目もくらむような光が差した。一瞬稲光かと思ったが違った。大型車のヘッドライトだった。その直後、激しい衝撃を感じて義太は意識を失った。気がつくと義太は道路にひとり倒れていた。
すぐ近くのガードケーブルは無惨に壊され、崖下を覗くと義太の愛車が無惨に落下し燃えていた。義太は幸いかすり傷程度で済んだが、愛車は大破炎上、だが後部座席に乗っているはずの女はどこからも見つからなかった。
その翌日、義太の車が転落した現場では、片側交互通行が行われていた。その日も雨で、交通量は極端に少なかった。その日の3時過ぎ、仙台側の料金所から1台高級外車マクラウドがブルーラインに入って行った。
2時間ぶりの車であった。そのマクラウドが事故現場から同じように谷底に落ちているのが発見された。義太の車が破損したガードケーブルの間から落ちたらしい。
だが現場検証の結果、運転していた男は扼殺されていることが判明した。しかも落下直前に扼殺されたのだった。マクラウドはマニュアル仕様で、ギアはトップ。
どうみても死者が運転する車が登り坂を疾走して、ガードケーブルの隙間から谷へ向かって落下したとしか思えないのだった。

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