化身

第5回鮎川哲也賞受賞作。
女子大生人見操は、母親を病気で、父親を交通事故で亡くし、一人ぼっちであった。父親が事故にあったときに住んでいた、宮城県塩釜の自宅を出て、東京で一人暮らしをしている。
父親が残してくれた少しの遺産と保険金と事故の際の慰謝料で、金には困っていなかったが、今後を考えると派手に使うわけにも行かず、生活はごく質素であった。
そんな操のところに、ある日ピンク色の封筒に入った手紙が届く。消印は板橋局だったが、差出人の名はなかった。開いてみると2枚の写真が出てきた。
1枚はどこかの幼稚園か保育園の入口を写したもので、もう1枚は腰布をつけた少年が胴体は一つだが数え切れないほどの頭を持つ怪物を踏みつけている絵の写真であった。
それを見た瞬間、操の前身が硬直し痙攣が走った。幼稚園だか保育園だかの写真に見覚えがあるような気がしたのだ。そんな操の様子を見て、遊びに来ていた親友の秋子が心配した。

秋子は操から両親や家族の事を聞いた。操には既に死亡した両親のほかに、小枝という姉がいた。ところが両親に聞いたところ、小枝は1歳の時に海で波にさらわれて行方不明になっていた。
操は次女で、小枝の分まで一身に愛情を受けて育った。立派でやさしい両親だった。ただ不思議なことに、操の幼児のときの写真が1枚もなかった。両親によれば火事で焼けてしまったのだという。
今まで操は両親のいうとおりに信じていたが、送られてきた2枚の写真を見て、その両親の言葉も本当のことではないのでは、と疑いを持ちはじめた。
秋子は写真は操の過去のことを報せるためのものではないか、写真に写っている幼稚園か保育園が操の幼少時に何か関係しているのではないか、と推理してクラブの先輩坂崎に写真を調べてくれるように頼んだ。
ミステリマニアの坂崎は写真の片隅に写っていた些細なことから、写真は墨田区のひかり保育園とわかった。そのひかり保育園では今から19年前の暮、ひとりの女の子が誘拐された。
誘拐された女の子の名は桑野珠恵といった。操は本当は桑野珠恵であり、操の両親は19年前にひかり保育園から幼児を誘拐した犯人なのではないか、と急速に操の中で疑惑が広がっていった。
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