人形はライブハウスで推理する

我孫子武丸のユーモア推理短篇集。腹話術師朝永嘉夫は二重人格者で、腹話術の人形鞠小路鞠夫というもう一つの人格を持っている。ノホホンとした嘉夫、頭脳明晰な名探偵鞠夫が一つの肉体に同居しているのだった。
嘉夫の恋人で幼稚園に勤める妹尾睦月や嘉夫の周辺で起きる不可思議な事件や難問も鞠夫の推理でたちまちのうちに解決されていく。

人形はライブハウスで推理する
突然、田舎から出てきてしまった妹尾睦月の弟葉月。睦月の部屋に泊まり、翌日は睦月と嘉夫のデートにまでついてきた。さすがに途中で追い返され、睦月と嘉夫は映画を見て、夜遅くに帰宅した。
そこに警察からの電話で、葉月を拘束したという。容疑は殺人。葉月は睦月たちと別れた後にライブハウスに入り、そこのトイレの個室で喉を掻き切られた男の死体を見つけた。
男は暴力団の関係者で、覚せい剤の密売人。ライブハウスのトイレは密売の現場で、トイレの入り口は2人の人間に見張られていた。トイレの中にいたのは葉月と被害者だけ。この状況を聞いた嘉夫と鞠夫は…

ママは空に消える
睦月のクラスの相田瑠奈ちゃんの母親がどうかしたらしい。送り迎えは父親がやるようになったし、瑠奈ちゃんに聞くと「お空に上のおばちゃまのところに行ったの」と言う。そして、その翌日から風邪を引いたと言って欠席が続いた。
瑠奈の父親は母親に対して暴力をふるっているらしい、との話も耳にして心配になった睦月は、様子を見に瑠奈のところに行ったが、そこでは案の定元気な瑠奈がお絵かきをしていた。
睦月は父親が母親を殺したのかも知れないと妙な想像を始めたが、そこに瑠奈の父親が帰って来てしまい…

ゲーム好きの死体
嘉夫のファンと称して、追っかけまでしている女子高校生の兄が殺された。ちょうど女子高校生が嘉夫の部屋に押しかけて来ている最中のことだった。
死体を発見したのは友人だったが、被害者は発売されたばかりのテレビゲームに熱中していたところを殺されたらしい。そしてなぜかゲームのCDだけが盗まれていた。
嘉夫は女子高校生のアリバイの証人でもあり警察に呼ばれたが、担当は鞠夫の実力もよく知る小田切警部。警部に対して鞠夫はゲームを知ることが事件解決の重要なポイントだと言いくるめて、嘉夫に一晩中ゲームをやらせて熱中するのだが…

人形は楽屋で推理する
こどもの日に幼稚園の子供たちを地元の公民館で開かれた「こどもの日人形カーニバル」に引率した睦月。園児は希望者だけ20人、引率は睦月と野坂先生、それに母親が4人。
余裕を見て30分前に到着し、出演者の一人の嘉夫と鞠夫の出迎えを受けて、ぞろぞろと受付を通って中に入った。入場券は園長先生がポケットマネーで出してくれて、すでに用意してあった。
やがて人形劇が始まり、10分間の休息となったが、休息とはいえ園児たちをトイレに連れて行ったりして大騒動。再び開演のベルが鳴り、人数を数えて見ると園児が一人足りない。睦月にクラスの青木海君だった。
大慌てで探してみるが、館内にはどこにもいない。唯一の出入口にいた係員も、出て行ったのは大人の男が2人だけだという。
終演時に出ていく人間をチェックしたがその中にもおらず、その後は楽屋を含めて隅々まで捜索したが海君はどこにもいなかった…

腹話術志願
嘉夫のもとに弟子入り志願者が現われた。大河原洋治というが腹話術に向くとは思えなかった。睦月も鞠夫も反対するが、気が弱い嘉夫は住込みを許してしまう。
それか2週間ほどが過ぎ、大河原が警察に逮捕されてしまう。容疑は強盗殺人。前にバイトをしていたコンビニに、深夜強盗に入り、店員をナイフで刺して失血死させ、何も盗らずに逃げたのだった。
防犯ビデオには大河原らしき人物が映っていたが、フルフェイスのヘルメットに黒手袋で人相はわからないし、指紋も取れない。被害者はバイトの相良健太。先輩風を吹かせるイヤな奴で、大河原とも揉めていたという。
発見者は同じくバイトの檜皮賢で、檜皮は近所の書店に買物に行って戻ってみるとカウンターの後ろで血まみれになっている相良を発見したのだった。
防犯ビデオは画像は粗く顔ははっきりしないものの、カウンターで金を要求する犯人、ナイフで刺される店員、戻って来てカウンターの後ろを覗きこみ驚く檜皮を克明に移し出していた。
しかも悪いことに大河原は100万円と言う大金を隠し持っていた。動機の点からも大河原が捕まったというわけだが…

夏の記憶
睦月の実家に向かう列車の中、嘉夫が睦月の中学時代のことを訪ね、睦月は今村真理という親友とのケンカ別れのことを昨日のことのように思い出した。
ふとした事がきっかけで喧嘩をしたが、少しして真理は北海道に転校した。両親の都合ということだった。引っ越し直前に仲直りし、新しい住所も教えてもらい、すぐに長い手紙を書いた。
だが、その手紙は届かなかった。宛先不明で戻ってきてしまったのだ。仲直りはしたものの、心の中では嫌われていたのだろうか?睦月は思い出すだけで苦いものがこみ上げてきた…


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