新・本格推理07・Qの悲劇

新本格推理2007年版。
暗黒の海を漂う黄金の林檎   
七河迦南
21世紀後半になって本格化した人類の宇宙進出は、現在80の宇宙ステーションを持つほどになった。そのうち地球の軌道からもっとも遠いところにある一つのステーション、通称林檎はノイ博士が、一種のテレポーテーションである亜空間躍動を実用化する研究をしていた。
亜空間躍動が成功し、移動した人体が生存する確率は3割、これをいかに10割にするかというのが最大の研究テーマであった。
そして博士の娘アン、ブレンダ、クレアの美人三姉妹が同時にテレポーテーションを行う最大級の実験をすることになった。三姉妹はブランチと呼ばれる分離可能なサブステーションに、ほぼ同時に一人づつ入った。
そしていよいよ実験が開始されようとする直前、ブランチUから生体反応がなくなった。すぐに実験は中止されブランチUが調べられた。そこには首を切られたブレンダの死体があった。
アンとクレアの2人はほかのブランチにおり、そのほかには博士のほか2人の人物しかステーションにはいなかった。博士たち3人はメインのステーションにいたことは間違いない。でも、誰かがブレンダを殺し首を切ったのだった…

床屋の源さん、探偵になる    
青山蘭堂
鳥取県の山奥にある長久羽村は、80年ほど前に村人の一人が首を切り落とされて殺されるという凶悪な事件が起きて以来、周囲から生首村といわれていた。
その生首村に10年ほど前に鈴木源兵衛という老人がやってきて、小さな理髪店を開いた。この源兵衛という人物は、無類のミステリマニアで、客が退屈しないように待合室に置いてある本もミステリばかり。いつか事件が起きて、快刀乱麻を断つごとく名探偵ぶりを発揮できないかとでも思っている。
さて、この村に1年ほど前に栗崎政和、北風丈一という2人の無軌道な若者が、無人の農家を借りて住みついた。2人の若者は元暴走族で、両親に入れられた神戸のスパルタ式のヨットスクールを退学して村に住みついた。
村に住みつくにあたっては、怪しげな神父の世話になったといい、生活費も神父が送ってくれるので働きもせず遊んでばかりいた。
やがて事件が起きた。栗崎と思われる男の死体が村を流れる川に浮いていたのだ。思われるというのは、死体には首がなく、しかも指紋はすべて剥ぎ取られていたからだった。
床屋の減兵衛は、その話を村人に伝え聞いて小躍りして喜び、減兵衛の影響でミステリマニアになった村人ともに推理談義にふけるのだった。

黄昏に沈む、魔術師の助手   
如月妃
貧民街の怪しげな地下室で毎夜行われる、魔術師ギディオン・フリークスのマジックショーの呼び物は「切断戯」。
ギディオンは盲目の美女ラナリアを助手にして、客の一人に黒い袋をかぶせて棺に入れ、電動鋸で両手両足を切断し、その後の客を甦らせるというのが「切断戯」であったが、噂では本当に人体を切断しているらしい。
ランスロットは、ある夜にギディオンの「切断戯」を見るためにマジックショーに行った。まさにその魔術は真に迫るもので、本当に人体を電動鋸で切断しているとしか思えなかった。
どう見ても手足の切断面、飛び散る血しぶきなどは本物で、客のある者は卒倒し、ある者はギディオンを人殺しと罵った。だが、最後にはどういうわけか客が甦り、元気に棺から飛び出した。
いったいどういう仕掛けなのだろうと、ランスロットはショーが終わったギディオンとラナリアの後をつけていくが…

くるまれて    
葦原嵩貴
心臓が弱く、高校も欠席がちな陸奥家のお嬢様は、唯一の肉親である祖父の幸之助と2人で暮らしていた。お嬢様は学校に行くときも、運転手の板谷嘉一の運転する車で送り迎えされ、そのために友達というものがいない。そのお嬢様のささやかな楽しみは、小さな空き瓶を使った瓶詰め通信。
小さな空き瓶に匿名で手紙を入れ、下駄箱の上の目立たないところに置いておくのだ。瓶は簡単には見つけられないから、最初の数日は反応がなかったが、そのうち誰かが返事をくれるようになった。そのうちにお嬢様が学校に行くのは、瓶詰め通信を楽しみにするのが目的になった。
そのうちにお嬢様の屋敷で執事役の使用人浜弘文が死んだ。夜中に裏口に通じる階段から転落し、頭を打って死んだらしい。らしい、というのは警察はそう断定し幸之助も信じた。だが、お嬢様は信じなかった。
その夜に、男が浜の体を担いで庭を歩いているのを目撃したからだった。だが世間知らずのお嬢様は、そのことを言い出せない。そこで瓶詰め通信に、浜の死について書き、いつものように下駄箱の上に置いたのだった…

密室の石棒    
藤原遊子
千葉県F市で宅地造成中に発見された貝塚。さっそく郷土資料館と京葉大学による発掘作業が始まった。その中心となるのは京葉大学の小野助教授。
ある雨の夜のこと、小野助教授が一人で発掘現場の事務所に詰めていた。現場を荒らされるのを防ぐために、現場には交代で必ず2人以上が、詰めることになっていたが、この日はコンビを組む予定の学生が来れず、小野助教授一人で詰めていた。
翌朝、小野助教授が死体で発見される。それも中からサムターン錠が掛けられ、密室となった事務所の中で…
事務所のサムターン錠は中からしか掛けることができない。そして事務所の中には見たこともない石棒が転がっていた。貝塚から発見されたものと思われるが、その石棒のことは関係者は誰も知らなかった…

歪んだ鏡    
成重奇荘
独創的で有名なデザイナー浮草澄子を殺したのは妹の晶子であった。晶子は子供のころから優秀な姉の姿を見、それを真似ることで過ごしてきた。責任のない学生時代までは、それでもよかった。
だが、大学を出て姉が創り上げたファッションメーカーにデザイナーとして勤めてからは、そうはいかなかった。晶子のデザインの基本は、すべて姉のコピーだったから、独創性を求める姉が許すはずがなかった。
そして晶子は姉から最後通牒を受けた。独創的なデザインができなければ、デザイナーから他部門に異動させるというのだった。そんなことには耐えられない晶子は、ミステリマニアの友人西岡はん子が学生時代に考えた、密室トリックを使って姉を自殺に見せかけて殺すことにした。
はん子は、その密室トリックを晶子に語った直後に、交通事故死していたから、晶子が疑われる心配はないはずだった…

詭計の神    
愛理修
新興宗教アラナギ会の教祖新薙俊光は、教団の敵である羽根忠を殺した。そのときの状況はこうである。
俊光はビルの教団支部に入り、窓を全開にして外から見えるようにする。支部は2部屋に分かれており、向って左が応接室で、支部の外に出る唯一のドアが付いている。向かって右が教祖の部屋で、俊光はそこにいる。
教祖の部屋から支部の外に出ようとすると、いったん応接室を通り、応接室にあるドアを使うしかない。そして全開の窓を通して、少し離れたビルの屋上から50人の信者と9人のマスコミ関係者が支部の様子を見ている。
ビデオテープも回っていた。やがて俊光は立ち上がり、教祖の部屋のカーテンを閉める。そして約1時間半後、部屋のカーテンが開けられ、血のついたナイフを持った俊光が姿を見せた。
その間、支部のドアが開かなかったのは9人のマスコミ関係者が見ていたし、ビデオテープにも記録されていた。しかし、羽根忠は本当にあおの間に殺された。
羽根を殺した凶器は俊光が振りかざしたナイフに間違いなかったし、羽根の部屋の壁には、血塗られた俊光の手形がべったりと残されていた。俊光は犯行を否定せず、ナギの神の力で俊光を殺したというのだが…

ホワットダニットパズル    
園田修一郎
獅子山町の文化ホールで開かれた記念式典に招かれた沙織、秀夫、猛のお笑いトリオ、クレージー・トリニティ。昼の部の舞台を終えて控室に戻り、沙織と猛は別の人物の舞台を見に出て行った。
再び控室に戻ってきた沙織と猛が見たのは、首のない秀夫の体。さらにホールのすぐ裏にある池には死んだ人間の体が浮いていた。
翌日、沙織が再度タクシーで事件現場のホールに向かうと、着いた場所は前日とは似ても似つかぬホールであった。
以上が園田修一郎が友人の倉科から手渡された、ワープロで打たれた誰かが書いた記録と沙織の日記帳に長々と書かれていたことの要点であった。
実際の文章は記録のほうは視点が定まらず、日記の方も意味不明な箇所が多かった。倉科はこの記録と日記帳から不可思議な謎を解いみてくれと言ってきた。

イルクの秋    
安萬純一
ソ連時代の末期のころ、シベリアのイルクーツクの厳重規律矯正労働収容所からユーリ・コラボイという凶悪犯が脱走した。コラボイは裏では地元のマフィアと深いつながりがあり、イルクーツクでも恐れられている人物であった。
厳重規律矯正労働収容所は一か所の出入口を除いて、3メートルを超す有刺鉄線が張り巡らされた柵で囲まれ、随所に監視所もあり、犬や警備員が随時巡回している。
コラボイの行方がわからなくなった時間に出入りしたのはトラックとヴァンが1台づつ。だが、2台の車は入るときも出る時も警備員に厳重に検査され、さらに犬も使われたが怪しいところはなかったという。
敷地内の建物の影からはコラボイの着ていた囚人服が発見されたが、犬を使った追跡には失敗した。季節はまもなく本格的な冬で、地面はすでに相当に堅くなっており、重機を使っても掘るのは難しい。
郊外にある収容所は、その周囲には何もなく、空からも地表からもその時間に近づいたものはない。はたしてコラボイは、この厳重な収容所からどうやって脱出し、どこに隠れているのだろうか…


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