新・本格推理06・不完全殺人事件

新本格推理2006年版。
手のひらの名前   
藤原遊子
暴力団幹部の九十九雄太が愛人のクラブのママ小出美香子と一緒に、美香子のマンションの前でタクシーを降りたのはもうすぐ日付が変ろうとする頃だった。
2人がマンションの玄関のほうに行きかけると、植え込みの影から目出し帽をかぶった男が飛び出し、右手にサバイバルナイフを持って大声で喚いて2人に襲いかかった。
九十九は持っていた杖で防戦しようとし、男はそれを避けて美香子とぶつかった。ナイフが美香子の腹部に刺さり、九十九は男の頭部を杖で強打した。
この結果が美香子はほぼ即死、2人を襲った男も病院に運ばれた後に死亡が確認された。2人を襲ったのは対立する暴力団の関係者で、美香子の前の愛人だった。
この事件には目撃者が2人いた。買い物のためにエントランスに出てきた住人とチラシ配りをしていたフリーターだった。事件は正当防衛か過剰防衛かが争点だったが、住人の方の証言を重視すれば過剰防衛となり、フリーターの証言では正当防衛が成立する。
この事件を担当することになった、新米女検事千羽不二子はこれをどう処理するのか…

]以前の悲劇    
園田修一郎
メジャーリーグで活躍したイサイア・スタンフォードは引退後は、大西洋に浮かぶナンタケット島の屋敷で暮らしていた。
イサイアの孫の大学生トーマスと友人になった日本の高校生渉と渉の同級生栞と魁人の3人は、トーマスに招かれて夏休みの終わりにナンタケット島に向かった。
トーマスと会うことのほかに、伝説の名プレイヤーであるイサイアと会うことも大きな目的の一つであった。ナンタケット島のイサイアの屋敷には、イサイアの長男や次男、長女たちも集まっていた。
最初の夕食のときに渉達は、あこがれのイサイアに会ったが、イサイアは車椅子に乗っており、機嫌が悪いのか愛想も良くなかった。
そして夕食後、部屋に篭ったイサイアが殺されるという事件が起きた。イサイアの居室は2つのドアは40センチはあろうかという閂で厳重に閉ざされ、窓には内側から板が打ち付けられていた。
聞けば、最近イサイアが銃撃された事件があり、それ以来イサイアは極度に用心深くなったのだという。外からイサイアの居室に入ることは不可能で、斧でドアを叩き壊して入った。その密室の中でイサイアは前額部を強打されて死んでいた。

般若の目   
時織深
森下、住吉、菊川の3人の男は山中でアベックを殺害し、死体をあるところに始末した。ところが、その途中で道に迷った女に姿を見られ、乗っていた車で女を跳ねた上に強姦し、その女を湖投げ込むという悪事を重ねた。
そののちに森下の叔父の別荘に引き揚げてきたが、湖に投げ込んだはずの女が殺人鬼と化して3人を殺す目的で別荘に忍び寄った…

みんなの殺人    
ひょうた
一代で財をなした高津嘉兵衛には長女の彩子、次男の道彦、それに死んだ長男の娘で嘉兵衛には孫にあたる7歳の綾香がいた。
70歳を過ぎた嘉兵衛は名探偵アイとそのパトロンである押倉万頭、それに弁護士の的場を立ち合わせて3人の子供や孫に死の呪文が書かれた紙を渡した。
金にあかせて半年前にアメリカのジプシーの老婆から手に入れたもので、この紙で嘉兵衛殺すか、そのまま何もせずに嘉兵衛の死を待ち遺産の分け前に預かるか、どちらかを選択しろ言い渡した。
ただし、嘉兵衛を呪い殺した者には遺産は1円もいかない。呪文の効果は抜群で、嘉兵衛はそれを証明して見せた。3人は嘉兵衛を憎悪していたが遺産も欲しい。期間は1週間。もし、その間に嘉兵衛が死んだ場合には名探偵アイが犯人を捜査する手はずになっていた。はたして、この常識離れしたゲームはそうなるのか…

マコトノ草ノ種マケリ    
鏑木蓮
宮澤賢治が親友の藤原嘉藤治とともに、西木家に出向いた。西木家の一人息子の信夫の三回忌の追悼のためで、生前信夫が好きだった音楽を流すために、そのころではまだ珍しかった蓄音機を背負っての旅であった。
西木家は茶の栽培で有名で、その家はこの地方特有の曲り家であった。土間の隣りに馬屋があって、人馬が一つ屋根の下で暮らすのである。西木家でもかまどのすぐ近くの馬屋に2頭の馬が繋がれていた。
3回忌の出席者は西木信一郎とサキ夫妻、高橋夫妻、信夫の最後の手術を執刀した杉江医師と看護婦の藤村なおであった。酒が入り、料理が出て、蓄音機がかけられ、やがてお開きになる。
杉江医師は泥酔して奥の部屋に休み、その手前の部屋に藤村看護婦、さらにその手前に高橋夫妻、賢治と嘉藤治と西木夫妻はまだ寝ずに囲炉裏で酒を酌み交わした。
暫くすると地震があり、その直後に藤村看護婦が飛び込んできた。杉江医師が首を切られて殺されたというのだ。医師の寝ていた部屋に行ってみると、押し切りという農機具で首を切り落とされ、首は廊下の駕籠の中に入っていた。賢治は犯人は家にいた7人の中にいるとして動き出す…

偶然のアリバイ    
愛理修
多くの人に恐喝をはたらいていた都留亀助が殺され、その家には火が放たれた。都留は焼け跡から焼死体で見つかったが、殺されたのは火が放たれる前だった。
北九州にある都留の自宅から5分ほどのパブに、恐喝されていた三橋という女性がいたことがわかり、出火5分前にパブを出て出火5分後に再び現れるという不自然な行動を取っていた。
当然のごとく三橋が重要参考人として聴取されたが、三橋は都留の自宅へ行ったところ、中から同じく恐喝されたいた火蛾が逃げるように出て来て駅に向かって走っていったと証言した。
火蛾が取り調べられたが、火蛾には三橋に目撃された時間には、博多駅にいたというアリバイがあった。

あやかしの家    
七河迦南
意識を回復した月彦には、意識を失う前の記憶がほとんどなかった。山中にある広大な屋敷も、その屋敷にいる人々も…だがシャム双生児の妹が部屋に入って来ると、その名前とともに妹の記憶は甦った。
だが、その直後から屋敷の人間が一人また一人と殺されていく。そのたびに月彦は意識を失うのだった…

蛍の腕輪    
稗苗仁之
能登に伝わる伝承の謎を現代の人間が解き明かす物語。
鎌倉時代、能登島に松島村という小さな村があった。七尾湾に抱かれるようにある能登島は耕地が少なく、松島村も漁業で生計を立て、年貢もあわびや魚類など海産物で納めていた。
その村に六蔵という男が流れついた。時代がらよそ者と差別されたが六蔵は真面目でよく働いたので、だんだん村人とも打ち解けていった。
ただ、よそ者であったがために村内から嫁を取れず、他村からお雪という娘を嫁にし、三蔵と吉蔵という2人の子供を設けた。ある日のこと、あわびの禁猟期間に六蔵は内緒で船を出し、そのまま行方がわからなくなった。
年貢を払えずに困っている平助のために禁を犯したのだが、このことが村長に知れ、お雪が呼び出され糾弾を受ける。そしてお雪は罰として、村の漁場からは締め出されてしまう。
村一番の海女であったお雪は仕方なく沖合いに出て漁をするが、生活は更に苦しくなり年貢も払えなくなる。そんな母親の様子を見て三蔵も吉蔵も必死で母を手伝い、漁にも一緒に出た。
海が荒れた日も休んでなどいられなかったが、そんなある日、荒れた海で必死で漁をし戻ってみると砂浜に多くの魚が飛び跳ねていた。お雪も三蔵も吉蔵も、お地蔵様のお助けだと喜ぶ。
松島村の外れにはお地蔵様があって、六蔵が毎日お参りをしていた。それを見ていた吉蔵もお地蔵様を崇拝して毎日お参りし、いつか地蔵が一家を救い、いじめる村人たちを懲らしめてくれると信じていた。
さらに村に行ってみると大きな石が家々を押しつぶし、家の中で村人たちが皆息絶えていた。お地蔵様が立ち上がって暴れたのだと一家がお地蔵様の所に行くと、お地蔵様は台座から離れて転がっていた。
そして、その側には六蔵が常に身に付けていた腕輪が落ちていた。これが能登に伝わる伝承「蛍の腕輪」という物語であった…


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