本格推理10・独創の殺人鬼たち

第5回「本格推理」募集の当選作品集。
手首を持ち歩く男   
砂能七行
新幹線の中で会社員がトイレに行って戻ってくると、座席に新聞紙に包まれた手首が置かれていた。びっくりしていると通路を挟んだ席の不気味な顔の男が、その手首は自分のだという。不気味な顔の男は蛭川と名乗り、座席を立ってグリーン車のほうに向かった。ちょうど静岡駅を通過したところだった。
それから暫くしてグリーン車の個室で相澤という男が殺されていた。個室の主は鴨志田という男で、相澤は昔の過激派の同士で、おそらく昔の同士であった蛭川に殺されたのだろうという。
ところが、その蛭川の死体が東京で発見されていた。しかも死体の発見は新幹線が東京駅を発車する前。蛭川の幽霊が自分の手首を持って新幹線に乗り込んで、相澤を鴨志田の個室で殺したのか…
鉛筆を削る男    
二見晃司
理想の鉛筆を求めて何本もの鉛筆をナイフで削る偏執狂の男。その男が鉛筆を握って殺されていた。鉛筆の芯は折れ、その鉛筆で自分の名前を書いた紙が残されていた。容疑者は4人。男が握っていた折れた鉛筆や男が書いた自分の名前は、ダイイングメッセージなのだろうか…

ダイエットな密室    
内藤和宏
屋敷に一人で住む富豪の老婦人。太り気味で70キロを越えると、屋敷の地下に作ったダイエットルームに入り、70キロに体重を落としていた。
その婦人がダイエットルームで餓死して見つかった。ダイエットルームは文字通りダイエットのための部屋で、ベッドと椅子のほかには何もなく、付属のトイレとバスルームがあるだけだった。
婦人の死体とともに猫の死体があったが、この猫も餓死していた。そして落ちていた文庫本には婦人の筆跡で「どうしても扉が開かない。タマのせいだ。助けも呼べない。このまま、死んでしまうのか」と書かれていた。
死体の発見時はダイエットルームは密室ではなかったが、婦人が閉じ込められたときには密室であったらしいのだ…

エジプト人がやってきた    
大倉崇裕
東京のアパートで殺された銀行員の独身男、静岡で殺された独身の女事務員。2人に接点はまったくなかったが、2つの殺害現場には血で書かれたアラビア文字が…「われわれはここに罰を下す。エジプトからの呪いをこめて」
事件は関連性ありと考えられ、そして2人とも懸賞マニアだったことがわかるが…

紫陽花の呟き    
鈴木夜行
戦後遠藤財団を一人で支え、大富豪として余生を送る遠藤やよいが探偵事務所に依頼してきたのは、60年前に突然失踪した双子の姉さつきを捜してくれというものだった…

ビルの谷間のチョコレート    
高島哲裕
1メートル50センチの通路を挟んで建つ2つのビル。一つには新日の出出版がもう1つには出版創造新社が入っている。2つの出版社の社長は兄弟だが、仲がものすごく悪い。
バレンタインデーに、その2つのビルの間に粉々に砕けたチョコレートが落ちていた。そしてそれぞれのビルの屋上で、新日の出出版の社長の娘と出版創造新社の社長の息子が首を吊って死んでいた。2人は恋人同士だったが、仲の悪い両親に交際を禁じられていた。2人の死と粉々のチョコレートの関係は…

夏の幻想    
網浦圭
13年前の小学3年の夏の事故の記憶。海岸沿いに平行して走る地方私鉄の線路と県道。線路も県道も海にせり出した小さな岬をトンネルで抜ける。
小学生だった私は夕方家に帰ろうとして岬の方に行くと踏切の警報機が鳴っていた。少しして小型トラックと1両の気動車が走ってきてトンネルに入るのが見えた。
だがトンネルから出てきたのは小型トラックだけで、気動車は出てこなかった。不思議に思った私はトンネルの出口に行って線路の上から中を覗いたが、短いトンネルの中には車両はおろか何も見えなかった。
首を傾げたその時、私はバランスを崩して一段下を走る県道に転げ落ち、車と接触した。幸い怪我は軽く、数日後に気がついたが消えた車両はは謎のまま記憶に残っていた。

冷たい夏   
守矢帝
夏の軽井沢の保養所。戦争中に掘られたまま残された防空壕の跡。この防空壕を利用して、半年前の冬に学生達が雪を大量に保存して氷室を作った。半年後、学生達がやってくると雪は凍って残っていた。楽しい夏の雪遊び。
そして、翌朝、女子学生の一人が庭の白樺の木に首を吊って死んでいた。白樺の木まで残されていたのは、一条のスリッパの跡。その女子学生は自殺したのか、それとも…

透明な鍵    
織月冬馬
製薬会社社長の別荘は、1階がガレージで2階が居住スペースになっていた。1階は2つに仕切られてガレージと5畳程度の小さな実験室になっていた。
実験室は化学が趣味の社長がガレージを後から仕切って作ったものであった。出入り口は実験室側に裏口があり、ガレージ側には道路に出るためのシャッターがあった。
そのほかには外部との間に出入口はなく、実験室ガレージの間には扉があった。社長の死体が発見されたのは実験室から社長が出てこないのを不審に思ったお手伝いが様子を見に行ったからだった。
そのときに裏口のドアは中から鍵が掛っているらしく開かなかったという。シャッターも閉じられたままで、密室状態の中で社長は死んでいた。後頭部を殴られたのだった。
シャッターの鍵は社長の娘が持っていた。その鍵で入ってみるとガレージには社長の死体があり、実験室は派手に荒らされた状態であった。疑われたのは社長の娘であったが…

飢えた天使   
城平京
画家芹沢春奈はアトリエのトイレで餓死していた。トイレのドアの前には冷蔵庫やテーブルや椅子が積み上げあれてドアは開けられないようになっており、犯人は春奈をトイレに監禁して餓死させたようだった。
容疑者は春奈の夫で画家の芹沢敏和。敏和と春奈がしょっちゅう喧嘩をしていたことや、画家としては春奈の方が圧倒的に知名度があったことなどから動機はあった。
だが、敏和は春奈の死体が発見された夜に交通事故にあって記憶を失っていた。警察も容疑が濃いことを認めながらも、証拠がなく敏和を逮捕できない。敏和は自らも真相を明らかにしたくて、探偵に事件の真相解明の依頼をした。

サンタクロースの足跡   
葉月馨
クリスマスイブの夜、当時5歳だった浩介少年は英国に住んでいた伯父の屋敷に泊まりに行った。サンタクロースを信じない浩介少年に、伯父や叔母、従弟たちは屋敷中の鍵を預けてしまう。
鍵をかけた後、その鍵を浩介が持って一晩寝れば、誰もサンタクロースになれないわけだ。しかし、翌朝浩介の目の前には大きなそりに載せられたプレゼントの数々があった。
そのそりは組み立てるのに半日もかかるという代物で、組み立てた後では部屋に入らないのは明らか。浩介はサンタクロースの存在を信じないわけにはいかなかった。

SNOW BOUND   
荻生亘
米国のある都市、前夜雪が降って積もったが日が昇るとすぐに解け始め、10時頃には舗道には既に雪はなくなった。その時刻、画家オリバー・フレミングの屋敷に家政婦フィリスが出勤してきた。
ちょうどフレミングの絵を買いに来たビビアンという娘が家の前で待っていた。フィリスは鍵で屋敷の玄関を開けると、そこにはオリバーの甥ハワードの首吊り死体がぶら下がっていた。
驚いた2人は離れに向かう。物置を改装した離れはオリバーが書斎兼アトリエとして使っていて、本宅とは舗道でつながっていた。離れのドアには鍵が掛っていなかったが、ドアを開けるとそこにはオリバーの首吊り死体が…

肖像画   
濱手崇行
山奥に住む画家大倉時談。その家の周囲には何もなく、買出しに行くだけでも車で30分ほど悪路を走らなければならない。時談はそこに妹ともに住み、好きなときに絵を描いていた。
ある雨の日、妹が買い出しに行っている間に時談がアトリエで死んだ。描いていた「由月政恵の肖像」という絵が包丁で切り裂かれ、時談の血の着いた包丁がアトリエの外の廊下に放り出されていた。
時談の死体には水がかけられた跡があり、さらに時談の自慢の髭が剃られて、かわりに精巧な付け髭がつけられていたが…


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