本格推理9・死角を旅する者たち

第4回「本格推理」募集の当選作品集で、3巻に分けて編まれたうちの第3巻。
ある山荘にて   
武井学
最近体調を崩して山奥の山荘で静養しているという人気女流推理作家。その山荘に一団の人間が招待を受ける。人気女流推理作家には、一卵性双生児の妹がいて、皆は似ているのに驚くが、妹の元気さに比べ作家の方は顔色も悪く体調を崩しているのが一目でわかった。
深夜、作家の部屋から悲鳴が聞こえ、皆で駆けつけてみるとドアには中から鍵がかけられていた。合鍵でドアを開けてみると室内には作家の絞殺死体が…
作家の部屋の窓は開いていたが、部屋は3階で壁は垂直、とても出入りできるとは思えないが、地表には誰かの足跡が…

ある山荘にて    
吉田豊
推理作家の山荘に招かれた新人作家や編集者、作家の友人たち。食事が終わり思い思いに談笑していたが、作家はその途中で気分が悪いと早めに自室に引き上げた。
翌朝いつまでも起きてこない作家を心配した一同が作家の自室に行くと、中からロックされていて応答がない。ロックは中からしかできないタイプだというので、皆で蹴破って入ってみると、畳の上に作家の生首がポツンと置かれていた。首の根元にはなぜか白いマフラーが巻かれて、血の染みが広がっていた。

初雪の舞う頃    
紫希岬真緒
ペンションヘキサゴンは、その名の通り2階建ての小さな白い洋館を中心にして、客室となるログハウス風の平屋建ての建物が6棟その周囲を囲んでいた。
6棟の建物にはテニスサークルの6人が一人づつ入る。雪が降り積もった真夜中、そのうちの一つ2号棟へは部屋に向ったテニスシューズの片道の足跡しか残っていない。そして2号棟の人間は死体となっていた。
睡眠薬を飲み、自筆の遺書のようなものもあり、片道分の足跡しかないことと合わせて自殺とされたのだが…

十円銅貨    
新麻聡
女子大生のところに10円玉が1枚だけ入った封筒が送られてくる。送られてくるのは数日おきで差出人の名は無く、封筒の裏に数字が打ってあるだけ。最初に来たのは1で、次が2、その次は5という風にところどころ数字が飛んでいた。最終的に届いたのは38通で、最後の封筒の番号は55であった。この10円玉の謎とは…

無欲な泥棒    
吉野桜子
関西の大学のミステリ研究会が毎年泊りがけで行う冬の交流会でのこと。恒例の推理劇が終わり、後片付けをしているときに泥棒が入り、無人の部屋を荒らして参加費を盗んでいった。ところが参加費の入った封筒は廊下に落ちていて、調べてみると1万2千円だけ抜き取られていたようだった。残りの11万円余りは無事に封筒に残っていたが、この無欲な泥棒の目的は何だったのだろうか…

白銀荘のグリフィン    
柄刀一
白銀荘で行われた映画の撮影。安手の映画で、ほとんど自主制作のよう。撮影は開始されたが、監督の機嫌が悪くなり撮影は中止になった。そして、その夜雪が降った。翌朝白銀荘の中に主演女優の死体があった。調べてみると女優は別館で殺されて白銀荘に運び込まれたよう。だが雪の上には女優が別館から白銀荘に歩いてきた靴跡しか残っていなかった。

女を探せ    
上野晃裕
信州白樺湖の畔で発見された女の死体はスキンヘッドにされていた。数時間後に女の髪が湖上に浮いているのが発見された。そのさらに数時間後、事件の捜査本部に男が現れて語るには…
上諏訪から乗ったバスに被害者ともう一人の髪の長い女が乗っていた。その3時間後に白樺湖のバス停から、髪の長い女が髪を短く切ってバスに乗り込んだのを目撃した。
…ということは髪の長い女が髪の短い女を殺し、自分は髪を切って髪の短い女に成りすまして逃亡したということになるのだが。

小指は語りき   
山本甲士
極道に入った兄貴を誘拐したという電話が入る。弟はもちろん両親も兄貴の狂言と思い、信用しない。誘拐犯はそれではと、兄貴の小指をつめて送ってきた。これにも母親が驚いて警察に通報。ところが小指には生体反応がなかった。小指は死後切られたもので、警察は殺人事件として捜査本部を設置した。だが、ここに兄貴が公衆電話のボックスで電話をしているのを見たという人物が現れた。しかも、見た時間は小指が送られてきた後のことだった。

森の記憶    
八木健威
森の中に建つ不思議な塔のような建物。2階建てくらいの高さで、1階は木で囲い鉄板のようなものを貼っただけで出入り口はまったくなく、2階部分には小さな窓があるだけ。
近くに聳えた木に登ってこの建物の2階の小さな窓から覗いたところ、中にはミイラ化した人間の死体が転がっていた。1階部分を壊してみると、中には土があっただけで、盛り土の周りを木で囲ってその上に2階部分にあたる建物を作ったような不思議な建造物だった。
15年前にはここはデベロッパーによって宅地開発されていたが、開発は突然中止になったというが…

密室、ひとり言   
増本宣久
ねじくれた性格で、向かいの家に住む慎二だけが唯一の友達の拓郎。だが拓郎と慎二は友達でもなんでもなく、拓郎がおとなしい性格の慎二を利用しているだけだった。
慎二も拓郎も絵を描くことを趣味としていたが、慎二の絵が入選し、さらに慎二の就職が決まって拓郎の前から去ることになった。内心慎二はほっとしていた。
慎二はその性格から拓郎に対して言いたいことも言えずにじっと耐えるだけで、夜中にはよくうなされて「拓郎、死んじまえ」とうわごとを言うくらいだった。
その拓郎が死んだ。現場は密室。唯一外と出入りできるのは換気扇くらいだった。その部屋で拓郎は喉を掻き切られていた。警察は自殺と推定したが、家族がドアの外から「拓郎、死んじまえ」という声を聞いたという。それが本当なら拓郎の死は他殺ということになるのだが…

それは海からやって来る   
天宮蠍人
朝早くの海水浴場の砂浜の上に横たわる一人の若い男。そばにはその発見者である若者。2人とも海水浴に来たグループのメンバーだった。砂浜の足跡は2つ。
1つは死者のサンダルによるもので、もう1つは発見者のもの。奇妙なのは死者の様子で、首の骨を折り、どこか高いところから叩きつけられたような状態であった。まるで海から怪物が出てきて被害者を鷲づかみにして殺したような…

五行相克の殺人   
五月たぬき
田舎の夏休みの川。そこに一人の小学生が叔父夫婦に連れられて泳ぎに来ていた。少年は水泳が得意で、学校のプールでは芋を洗うようでもの足らず、禁止されている川泳ぎに叔父夫婦と来ていたのだった。
3時間近く泳ぎ回った少年は疲れたのか、水から上がって水筒からお茶を飲んだりして休憩し、また川に入っていった。そして一息大きく息を吸い込んだかと思うと、水に潜った。
次に浮き上がった時、少年の体は上向きでピクリとも動かなかった。慌てて叔父が助けに行ったが少年は既に死んでいた。解剖の結果少年はクラーレで毒死したことがわかった。
クラーレは南米のインディオが使う毒で、直接注入しなければ効き目がない。ところが少年の周囲には誰も接近しておらず、これは叔父夫婦のほか休息していた農民も見ていたので間違いはなかった。第一、少年の体のどこにもクラーレを注入した跡がなかったのだった。


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