本格推理マガジン・絢爛たる殺人

「本格推理」シリーズ特別編第四弾は絢爛たる殺人と銘打ち、知られざる探偵たちの特集。幻の連作「むかで横丁」のほか岡村雄輔の中篇「ミデアンの井戸の七人の娘」など全5篇。今回から芦辺拓の編集に変わった。
ミデアンの井戸の七人の娘   
岡村雄輔
岡村雄輔のシリーズ探偵秋水魚太郎ものの第3作で、「宝石」1949年10月号に掲載された。

真木のり子はある夜、妖婆の導きによって東京のど真ん中にある秘密宗教組織の本部に連れ込まれる。そこは表向きは東方の星教会となっているが、上海に本部を置くフリーメイソンの支部で東方の星会館というのが本当の名称だった。そしてのり子の前に現れたのは?山砿造をはじめとする一族。
それは砿造の元夫人や現夫人、元夫人の生んだシャム双生児、さらには砿造の従弟といずれも一癖も二癖もありそうな人物だった。そしてその背後には謎の騎士団長イズレイル・フォン・アイヘンドルフとその用心棒の中国人が控えていた。そこでのり子は砿造の実の娘であり、シャム双生児の兄弟であることを告げられる。
続いてのり子に組織に入会するための不気味な儀式が行われた。催眠術にかかったようなのり子には拒むことはできず、短刀を握らされ、さらに不思議な匂いの漂う中、手にはべっとりと血糊が…のり子はとうとう気を失って倒れてしまった。一方その頃、教会のすぐ近くを名探偵秋水魚太郎が歩いていた。秋水はある人物からボディガードを頼まれて、教会に向かっていたのだ。
そして秋水はSOS信号が教会の窓にともるのを確認し、教会に急いだ。そこで見たものは木馬にまたがって死んでいる男の死体。死体は教会の赤岩副牧師のもので、短刀で刺殺されて死んでいた。その凶器となったのはのり子の持つ短刀であった。
妖気漂う秘密組織の中で行われた陰惨な殺人事件に秋水は傲然と立ち向かうが、今度は教会を訪ねてきた3人の男が、秋水の目の前で青酸ガスで殺され、しかもちょっと目を離した隙に、その3人の死体は消えてしまったのだった。

むかで横丁    
宮原龍雄・須田刀太郎・山沢晴雄
雑誌「宝石」の愛読者の会が発展したSRの会の同人誌「密室」で、連作の東西対抗が企画された。東の藤雪夫、鮎川哲也、狩久による「ジュピター殺人事件」に対し西は宮原龍雄、須田刀太郎、山沢晴雄3氏による本作品が発表された。
執筆には、本格推理小説であることや最初の殺人は顔のない死体型であること、いくつかの選択肢の中から2つ以上の小道具を使うことなど、いくつかの条件が付き、規定枚数は200枚以内だった。特に東の作品はアンソロジーなどに再録されたが、西の本作品はその後活字にならず幻の連作とされていた。

ある都市の駅近くのむかで横丁といわれる裏通りの飲食店街の裏側にある踏切で、事件が起きた。当初は駅を立てばかりの列車が、女を轢いたと思われた。女の死体は首が胴から離れていたが、その首から身元はすぐに割れた。さつきという飲食店の娼婦銀子の首であった。
銀子はその夜、客を取っていた。雨木と三矢原という2人で、三矢原は途中で帰りその夜の相手をしたのは雨木であった。だが雨木は着替えるとすぐに寝てしまい、銀子は雨木の服を持ったまま店から消えてしまっていた。その銀子が汽車に轢かれて死んだ、と思われていたが実はそんな簡単な話ではなかった。
首は確かに銀子のものだが、胴体は別の女のものだった。その女はどこのだれかまったくわからなかった。一方、大阪のキャバレーでは奇術のショーの途中に事故が起こり一人の男が死んだ。奇術用の拳銃に実弾が込められていて、その拳銃で撃たれたのだ。
しかもそのステージで使われるはずだった大型トランクの中からは銀子の胴体が見つかった。そしてさらに女の首だけが、ある原で見つかった。もちろんその首は列車に轢かれた胴体と合致する首だった…

複雑な事件、錯綜する謎、だがさすがはプロで、最後には収まるところにちゃんとおさまり、しかも意外な犯人まで用意されている。山沢氏も言っているが、惜しむらくは記述スタイルが不統一で、読んでいても三者三様の記述。

二つの遺書    
坪田宏
終戦後、抑留先から帰った本条時丸は、左目は失明し、右目も視力をほとんど失い失明も時間の問題だった。そして妻の満里は心臓発作で急逝と、まさに不幸のどん底だった。
世をはかなんだ時丸は、自殺を考えるようになり日記に心境をつづり、ある日行方不明になった。それから一週間後、離れの地下金庫で一人の男が死体で見つかった。
時丸の弟で柳原康秀が餓死していた。金庫は外側から閂がかけられていて、さらにその金庫の中にはもう一つ扉があったがそちらも開かなかった。もう一つの扉は内側から鍵がかけられていたのだ。つまり康秀は金庫を二つに仕切った前室の方で死んでいたのだった。
奥の部屋を鍛冶屋を呼んで焼き切ってみると、中には人がいた形跡があったが、もぬけの殻。どうもそこにいたのは時丸らしい。時丸であったなら、時丸は外に出て、何らかの方法で扉に閂をかけたようだ。
そうやって密室から脱出した時丸と密室の中で死んでいた康秀。死を希望しながら脱出した時丸と、死ぬことなど考えていなかったが餓死した康秀。いったいこの事件はどういう事件なのだろうか…

ニッポン・海鷹    
宮原龍雄
玄界灘に浮かぶ孤島菩薩島は海賊の末裔九鬼一族の島であった。表面上は日本領で、日本の法律に従っているが、歴史的な経緯もあって実態は治外法権といっていい島だった。荒海の孤島であるためにもともと人を寄せ付けず、島人たちも独自の掟を持ち、排他的であった。
島には八幡船が係留されていた。それは乾雲丸という名の千石船をかたどった和船で、島では神庫に保管されていたのだが、暴風雨の夜に姿を消していた。その乾雲丸が流れ流れて本土の星賀の港に姿を現した。濃霧の朝のことで、霧の切れ間からぬっと現れた幔幕と旗に彩られた異様な姿の船に星賀の漁民は色めきたった。
乾雲丸はすぐに再び濃くなった霧に姿を隠したが、漁民たちは船を出してその幽霊船を取り巻いた。だが次に霧が晴れたとき、乾雲丸の姿は跡形もなく消え去ってしまったのだ。そしてその跡には戸板に縛り付けられた半裸の男の死体が漂っていた。

この不思議な事件はすぐに警察に通報され、佐賀県と長崎県の両方の警察から係官が菩薩島に向かった。九鬼の当主は朝太郎といったが病弱のために娘の春海が応対に出た。まだ20歳過ぎと若いが、実に堂々とした態度であった。島独特の雰囲気もあって、事情聴取も捜査も思うように進まない。
さらに天気も怪しくなってきて、係官一行は九鬼の屋敷に泊まることになった。ところがその夜、屋敷で殺人事件が起きた。それも2件の密室殺人がほぼ同時に起きたのである。犠牲者の一人は春海の妹夏海。夏海は北九州で暮らしていたが、菩薩島に戻っていたのである。その死体は客間のベッドの上に横たわっていた。
今ひとりの犠牲者は当主の朝太郎で、これは自室で殺されていた。どちらの部屋も内側から錠がかけられ、窓も同様に施錠されていた。夏海の死んでいた客間には係官たちが宿泊する予定で、既に暖炉には火が入れられていた。一方朝太郎の私室は海に面しているためか、暴風雨により廊下や扉はびしょぬれで、壁や天井の表面から土砂が流れ出していた。
死因は刺殺で、2人の乳の下には短剣が深々と刺さっていた。それも同じ仕様の短剣で柄の模様がひとつは龍、もうひとつは虎だった。この短剣は4本一組でほかには亀と朱雀、いわゆる青竜、白虎、玄武、朱雀の四神剣であった。ではまだ事件は続くのか、そう思う間もなく今度は玄武の剣で殺人未遂事件が起きた。

風魔    
鷲尾三郎
大阪郊外にある広大な敷地を持つ精神病院が事件の舞台であった。その病院の庭には2万坪という大きな池があり鴻ノ池と呼ばれていた。池の中には右近島といわれる島があって、島には小さな建物が建っていた。その建物は黄色く塗られ、四面まったく同じ姿だった。つまり四面同じようにドアがついていた。
台風がこの地方を襲った夜、島に服部院長と院長を訪ねてきた塚口という男がボートで渡った。その後、台風の通過で池は波立ちとてもボートを漕げる状態ではなかった。台風一過の翌朝、ボートはまだ島につながれたままだった。だが事件は起きていた。
塚口が死体となって池に浮き、院長の姿はどこにも見えなかった。池には南方産の蛭がたくさん飼われており、人間が入ればたちまち取りついて血を吸われ、とても泳ぎきれるものではない。事実、塚口の死体からも血はほとんど吸い尽くされていた。塚口の死が事故か殺人かはともかく、院長はどうやって島から脱出したのだろうか。そしてその生死は…


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