本格ミステリ10

2009年1月1日〜12月31日に発表された本格短篇から本格ミステリ作家クラブプロジェクトチーム(松江松恋、千街晶之、柄刀一)が選んだベストアンソロジー。評論では横井司「泡坂ミステリ考―亜愛一郎シリーズを中心に」を収録。
サソリの紅い心臓   
法月綸太郎
アイドル冬の時代にメジャーデビューした、最後の正統派アイドルユニットのトライスター。所属事務所のオリオン・プロモーションが倒産し、解散した。現在メンバーの3人は、モッチこと望月加奈はローカルタレントに、メグこと若杉恵美はフィットネス経営者に、アズミンこと田中あずみは東京奥多摩で旅館の若女将になっていた。
オリオンプロが倒産したのは、無能な二代目社長折野耕成の放漫経営によるもので、折野はその後詐欺まがいの行為を繰り返し、借金に追われて最近は都内を転々として逃げ回っていた。その潜伏先近くの公園で折野の死体が見つかった。
ナイフを深々と突き立てられた殺人で、犯人もわかっていた。犯人の名は安田玲司というトライスターファンクラブの会長。勤めを辞めて以来、アルバイトをして生計を立てていたが、現在でもトライスターファンクラブの会長であり、ブログも持っていた。
その安田がブログで折野に天誅を加え、自分も死ぬと予告したのだ。事実安田は東京郊外の自宅で、青酸カリを飲んで死んでいた。自殺と考えられた。調べていくと、折野はトライスター再結成の話を持ちかけて詐欺を働いていたらしい。それを知った安田が義憤に駆られて天誅を下したらしいのだが…

札幌ジンギスカンの謎    
山田正紀
かつて名探偵の名をほしいままにした進藤正子のお供で、吹雪の北海道で決死のドライブをしていた風水火那子。正子のあまりに無謀な運転にさすがに身の危険を感じ、札幌ジンギス館という安直な名前のロードサイド店に無理やり車を入れさせた。
駐車場にはRV車が2台、店の仲は薄暗く客は男女の2人だけ。そこにサングラスにテンガロンハット、付け髭に松葉杖という妙な老人が現れる。老人は店のオーナーの名倉と名乗り、火那子たちに今日は臨時休業だと告げる。
最前からいる2人は客ではなく、不動産ブローカーだった。名倉は2人に店を売ることにし、今から契約をしようとしていたのだ。ところがそれから名倉の様子があわただしくなり、店の奥に消えた。ブローカによれば名倉には3人の息子がいて、名倉との仲は悪く、3人は契約に反対しているらしい。
やがて名倉が現れ契約の前に皆で食事をしたいと言い出し、正子と火那子も誘われ、都合5人でジンギスカンを始めた。すると名倉が突然苦しみだし、店から逃げ出してしまった。追いかけていくと、雑木林の中で名倉は首を吊って死んでいた。

佳也子の屋根に雪ふりつむ    
大山誠一郎
佳也子は恋人との仲を裂かれ、そのショックで元日の朝にフラフラと家を出て、結局福島県のある町の雑木林で睡眠薬自殺を図った。ところが佳也子を助けてくれた人がいた。近くで医者をしている香坂典子という女性で、典子は佳也子を自分の病院に担ぎ込んでくれた。
1月3日の朝、佳也子は目が覚め、その日一日典子はほとんどの時間を佳也子の側で過ごしてくれた。雪の降りやんだ夕方、スーパーに買い物に行き、その後夕食を食べさせてくれた。しばらくして佳也子はまた眠りについた。
再び目覚めたのはノックの音だった。警察が来ていた。なんと典子は自宅部分のキッチンで殺されていた。しかも雪の上に残るのは、夕方買い物に行った典子の往復の足跡のみ。当然のごとく佳也子が疑われることになり、警察に連行されたが、そこに密室蒐集家なる謎の人物が現れ、佳也子は犯人ではないと言い出した。

我が家の序列    
黒田研二
会社をリストラされた衣笠俊輔は、今まで仕事仕事で家族と全く向き合っていなかったことに思いをはせた。家族にもリストラの件は言えないと思いつつ、突然の雨の中を家に向かってとぼとぼ歩いた。
ふとこのまま電車に飛び込んで死んでしまいたくなり、ふらふらと踏切に向かったが、そこで狸のような顔をした柴犬に吠えられた。愛嬌のある顔で、俊輔を見つめ尻尾を振っている。電車に飛び込もうという考えもなくなり俊輔は家に向かった。犬も尻尾を振りながら俊輔についてくる。
家に着いたが玄関には鍵が掛り、とっくに帰っているはずの娘や息子、家にいるはずの妻もいない。いつも俊輔が帰って来るのは11時過ぎだが、今はまだ9時前。いったいみんなはどこに行ったのだろうか。みると犬は玄関先にちょこんと座っているではないか。
やがて娘、妻、息子と続々と帰ってきた。久しぶりの団欒だ。その席で俊輔は会社を辞めたことを打ち明け、さらに犬を飼うことも許した。さっそく犬にはボンドと名前が付けられ、家族の一員となったのだが…

「せうえうか」の秘密    
乾くるみ
京都府宇治市にある北乃杜高校には、校歌や応援歌のほかに逍遥歌というのがあった。戦前に作られたという古い歌で、もともと旧仮名遣いでつくられていたために「せうえうか」と通称されていた。
同校2年の清水克文は同級生で親友の横井圭に呼び止められ、「せうえうか」の歌詞の一部が変えられていたことを教えられた。さらにもともとの歌詞もわかっているが、どう考えてももともとの歌詞の方がいいのだ。
横井曰く、なぜわざわざ「せうえうか」の歌詞は変えられたのかというのだ。清水はどうも「せうえうか」にはある種の暗号が組み込まれているのかもしれないと考えた。

凍れるルーシー    
梓崎優
ロシア正教の修道院を訪れた斉木は、そこで不朽体、いわゆる防腐処理もしていないのにまったく腐敗していない遺体を見る。ルーシーとも呼ばれるリザヴェータ様の遺体だった。それはまさに奇蹟であり、修道院ではリザヴェータを聖性として申請していた。
斉木はその審問のために修道院を訪れた司祭に同行していたのだ。やがて審問がはじまったが、その裏では何かが進行していた。いったい何が…

星風よ、淀みに吹け   
小川一水
初来の月面基地建設を見据えて造られた実験施設BOX-Cでは、6人の男女が8ヶ月間の閉鎖環境での訓練を行っていた。8ヶ月間には打ち解けて絶妙のチームワークを誇ったメンバーも、訓練末期にはバラバラになっていた。
大きな原因は蓮台美葉流にあった。美葉流はありとあらゆることに精通した天才肌で、そのほとんどがそれぞれの専門家より効率的、合理的に解決でき、多くの無駄を省き効率化に貢献した。
最初のうちは感心していたほかのメンバーも、だんだん美葉流が鼻についてきた。一方の美葉流は平然と他のメンバーの役割に介入し、やがてはリーダーの座を要求するほどになった。
さすがにリーダーは否決されたが、これを機にメンバーと美葉流の間には徹底的な亀裂が走った。そして明日は実験終了という日の夜、施設内に警報が鳴り響いた。施設内で美葉流が窒息死していたのだ。故意に二酸化炭素の濃度を高めた結果で、どう見ても殺人だった。

イタリア国旗の食卓    
谷原秋桜子
西園寺家で行われた会食の出席者は4名。西園寺家の令嬢で中学1年のかのこと祖母の志津、一方招待を受けた漆原美保子と孫で中学1年の秀樹。実はかのこと秀樹は3歳のころからの許嫁であった。
とはいえ許嫁の約束をしたのは両家の祖父であり、とっくに死亡していたし、周囲のものはまともに受け取っていなかった。だが最近漆原家の事業が振るわず、銀行融資のために西園寺家を利用しようと考えた美保子が、そのきっかけとして、秀樹とかのこが許嫁であることを確認したいとしつこく申し入れてきていたのである。
その会食は西園寺家お抱えの杉本シェフの腕を振るったイタリア料理で進められた。ところがその途中、美保子が倒れてしまったのである。病院に搬送されたが、そばアレルギーであるとの診断。料理の一部にそば粉が使われたいたのが原因だったが…


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