本格ミステリ09

2008年1月1日〜12月31日に発表された本格短篇から本格ミステリ作家クラブプロジェクトチーム(我孫子武丸、松江松恋、千街晶之)が選んだベストアンソロジー。評論では千野帽子「モルグ街の殺人はほんとうに元祖ミステリなのか?」を収録。
しらみつぶしの時計   
法月綸太郎
24時間×60分=1440。その閉じられた空間には1440この時計があり、そのすべてが異なる時刻を指し示している。つまりどの瞬間を切り取っても、1日のうちのすべての分に割り当てられているわけだ。
時計はデジタル、アナログを含め様々で、もちろんすべての時計は正確に動いているから、それが同時並行的に流れているわけだ。やらなければならないことは、6時間以内に外部と同期した現在の正確な時を刻んでいる時計を一つ見つけだすことだった。

路上に放置されたパン屑の研究    
小林泰三
田村二吉の部屋を訪ねてきた徳さんと名乗る一人の老人。徳さん曰く、ここは探偵事務所のはずだというのだが、二吉にその記憶はない。が、徳さんは強引に謎を提示し答えを求めてきた。
その謎とは、道端の17か所に何日かおきに親指大ぐらいのパン屑が落ちているというのだ。1か所くらいなら気にならないが、定期的に同じ場所にパン屑が落ちているのはなぜだろう、気になってしかたがないというものだった。

加速度円舞曲    
麻耶雄嵩
険しい山道を走っていた日岡美咲の車の前に、突然大きな石が転げ落ちてきた。ブレーキは間に合わず、車は大破した。交通量がほとんどない道であったが、しばらくすると幸運にも一台の高級車が通りかかった。
運転手つきのその車に乗っていたのは自称貴族探偵。警察に連絡してくれた上に、美咲を送ってくれるというので甘えることにした。ところが警察が来て石は人為的に落とされたものだという。風向きが変わった。探偵の本能が動き出したのだ。
山道を辿って石が落ちたあたりにやってくると、そこには一軒の別荘。編集者である美咲はかつて訪ねたこともあったベストセラー作家の厄神春柾の執筆用の別荘だった。そして別荘の中には殴り殺された厄神の死体があった。

ロビンソン    
柳広司
日本陸軍D機関に属する諜報員伊沢和男は、潜入先のロンドンで写真館をやっていた。写真館の前の持ち主が老齢で日本に帰り、その後を任された甥っ子が和男ということになっていた。
ある日のこと和男が外で、ある人物と接触したが、英国の諜報機関に感づかれたようだった。和男は尾行を撒いて写真館に戻ったが、すでに英国諜報機関が先回りしていた。和男は捕まってしまったのだ。
厳しい取り調べが行われたが、和男はD機関長である結城中佐のこと思い出していた。とくに英国に旅立つ際に、結城中佐が餞別としてくれた「ロビンソン・クルーソーの冒険」のことを…

空飛ぶ絨毯    
沢村浩輔
久しぶりに東京から故郷に帰った僕に、八木美紀が微笑みかけた。美紀はイタリアに留学することになり、昔の仲間とともに送別会を行うための帰郷だった。その席で美紀は不思議な話を語った。
絨毯が盗まれたというのだ。その夜、酔って帰った美紀は部屋に入るや否や倒れるようにベッドに横たわった。すると翌朝、床に敷いてあったはずのお気に入りのペルシャ絨毯が見事に消えていたのだった。

チェスター街の日    
柄刀一
私は弁護士のベンソンとともにチェスターの町中にあるランドエンド・ハウスにやってきた。そこは胡散臭い者たちの巣窟で、私とベンソンの目当ては、凶悪な犯罪者ウィリアム・ギルだった。
ギルの部屋にはベンソンが一人で乗り込み、車椅子生活の私は外で待機していた。ところが事は簡単に運ばなかった。ギルが暴れだし、凶暴性をいかんなく発揮して、ベンソンは大けがを負い、私は辛くも逃げ出した。
そしてその夜、私は何者かに襲われて、それからの記憶がない。そして気が付くと見知らぬ部屋のベッドの上であった。私はどうやら拉致されてしまったらしい。ここから脱出せねばどんな目にあうかもしれないとの思いで、私は何とか脱出することには成功したのだが…

雷雨の庭で   
有栖川有栖
神戸市内にある住宅の50坪はありそうな庭で死んでいたのは、住宅の持ち主轡田健吾。轡田は市内でタクシー会社を経営していた。前夜雷雨があり、死体の周囲はぬかるんでいたが、足跡は一切なかった。
死体は庭にある天使像のそばに転がっており、頭を強打されたことでほとんど即死、凶器は死体の周囲にはなかった。轡田は妻の幸穂との仲は冷えきっており、その夜も幸穂は大阪市内で不倫をしていた。
さらに隣に住む放送作家の早瀬琢馬とはトラブルになっていた。といっても最近の轡田は妄想壁が強く、早瀬が女性を監禁しているとか毒ガスを作っているとか思い込み、交番にまで訴えていた。
早瀬は何度も轡田に怒鳴り込まれていたが、そこは大人で適当にあしらい続けていたが、心の中では辟易していた。その早瀬には轡田が死んだ時間、パートナーとパソコンを使って打ち合わせをしていたというアリバイがあった。

迷家の如き動くもの    
三津田信三
信州、飛騨、越中の境に聳える三叉岳には、昔から不気味な伝説がいくつかあった。その中に迷家という不思議な建物の話がある。家が現れたり消えたりし、人を食べてしまうというのだ。
さてその日、三叉岳を近くに望む鳥居峠を、4人の人間が通った。最初に通った人物は三叉岳に家は認めず、2番目にとおった人物は家は確かにあったといい、3番目の人物のときは家は再び消え、さらに4番めの人物は確かに家はあったという。伝説の迷家が本当に現われたのだろうか。それとも…

二枚舌の掛軸    
乾くるみ
市内きっての名家である松平家の当主道隆氏は、いたずら好きでも有名であった。地元では有名な企業グループの総帥を引退して、悠々自適な生活に入っても、いたずら心は変わらなかった。そのいたずらは、罪のない軽いものから、相手を激怒させるようなものまで様々だった。
その道隆氏が隔月に開く晩餐会があり、そのときに事件が起きた。その日の招待客は市長や市立病院の院長、道隆氏の趣味であるマジックの師匠、県立大学国文科の教授など全部で7名。その席で道隆氏は、北斎の対の掛け軸の話をし、食後に公開すると言い出した。
だが、いたずら好きの道隆氏のこと、話は全員に受け入れられたわけではなく、公開の席に出席したのは4名だけだった。そして公開が終わった後、ひとりになった道隆氏が同じ部屋にあった日本刀で斬り殺されたというのである。


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