本格ミステリ08

2007年1月1日〜12月31日に発表された本格短篇から本格ミステリ作家クラブプロジェクトチーム(我孫子武丸、松江松恋、円堂都司昭)が選んだベストアンソロジー。評論では渡邉大輔「自生する知と自壊する謎−森博嗣論」を収録。
はだしの親父   
黒田研二
夏彦は親父の死で6年ぶりに実家に戻った。就職と同時に実家を出たものの半年で退社し、フリーター生活を経て、道化役者に弟子入りし大道芸の道を歩んだ。そのプロデビューの日に、父の死を知らされたのだ。
6年ぶりに帰る実家、母親と兄の晴彦、弟の秋彦が迎えてくれた。そこで父の死の様子を聞かされた。癌で入院していた父親は、スーツに着替えて病院の中庭に倒れていたという。
スーツは小雨にぬれ、靴は履いておらず靴下の裏は泥で汚れていた。深夜、小雨が降る中、父はスーツに着替えて病室を抜け出したらしい。いったい父に何があったのだろうか…

ギリシャ羊の秘密    
法月綸太郎
2週間前から荒川の河川敷でホームレスをはじめた飯田才蔵は、深夜いやな気配に目を覚まし、近くで寝ているホームレス仲間のアリョーシャさんの段ボールハウスを訪ねた。
だが、そこはもぬけの殻。そこで周囲を捜し始めたが、河川敷の草むらの陰にヘルメット姿の2人組を見かけた。ホームレス狩にアリョーシャさんが襲われていると直感した才蔵が大声をあげながら走っていくと、2人組は逃げて行った。あとには倒れたアリョーシャさんがいた。
アリョーシャさんを抱き起こすと、背中にはナイフが深々と刺さっていた。2人組に刺されたのだ。才蔵は持っていた携帯電話で119番し、着ていたフリースのジャケットをアリョーシャさんにかけた。
その直後、才蔵の後頭部を強烈なショックが襲い、才蔵はアリョーシャさんの上に折り重なるように倒れた。意識がなくなる寸前、才蔵は女の声を聞いた…

殺人現場では靴をお脱ぎください    
東川篤哉
国立市のアパートの部屋で絞殺されているのが見つかった、若く独身の女性の死体。部屋の鍵は開いており、その女性は殺される直前に、階下の郵便受けのところで大家兼管理人とすれ違って言葉を交わしていた。
言葉を交わすと言っても挨拶程度で、女性は階段を上がり3階の自室へ、管理人は1階の自室へ向かった。この様子は通りの反対側の青果店の主人が目撃していた。
そしてこの事件で不思議なのは、殺された女性が部屋の中でブーツ、それも編上げの履きにくいものを履いて死んでいたことだった。

ウォール・ウィスパー    
柄刀一
温泉銭湯仙人の湯が40年の歴史に幕を閉じ、学習プレイランドに改造されることになった。その取り壊しの日に、銭湯を懐かしむ町の人たちが大勢集まって、最後の見学ツアーも行われた。
その見学ツアーに加わっていたひとりの女性が、壁の前に座り込んで動かなくなった。女性は40年前に父親と散歩に出たときに父親がガソリンを被って焼死し、女性もがけから突き落とされて記憶を失った。
女性の父親の死は自殺か他殺かでもめたが、借金もあったことから自殺とされ、狭い町で女性は肩身の狭い思いをして生きてきた。その女性が銭湯の壁を見て、40年前の事件の日に、この壁の前を紫の影がよぎったことを思い出したのだった…

霧の巨塔    
霞流一
奥多摩のひなびた旅館に映画のロケ隊が泊まっていた。ロケ現場は近くの廃墟。周囲に娯楽がないので、主演俳優の真中俊はマネージャーの加茂久志と毎晩のようにバイクで温泉に出かけた。
撮影3日目の深夜、温泉からの帰り道、2人が乗ったバイクが事故を起こした。幸い2人とも気を失っただけでたいした怪我もなかったが、事故現場で真中は巨大な塔を見たという。
そしてその日の深夜、加茂が何者かに殺された。とはいえ何もない山中のこと、犯人はロケ隊のひとりと考えられるが…

奇偶論    
北森鴻
市民講座の第1回は都市記号論と題され、都市に隠された様々な記号というテーマでフィールドワークを行うことになった。民俗学者蓮丈那智の助手の内藤三国が講師であった。
当日は15名の参加者が内藤に率いられて町を歩いたが、そのうちに近くの地下鉄S駅での事故の話になった。つい先日、S駅で女がホームから転落して電車にはねられて死んだのだ。
警察は自殺と断定したが、その死んだ女は今回フィールドワークに参加している出雲正一の妻静江。フィールドワークの参加者たちは、事件は自殺ではなく、静江は何者かに突き落とされたのだ、そして突き落としたのは正一だと糾弾をはじめた…

身内に不幸がありまして   
米澤穂信
孤児の施設から上紅丹地方の大財閥丹山家に引き取られた村里夕日に与えられた任務は、丹山家のお嬢様吹子の付き人。夕日は忠実にその勤めを果たし、吹子にも絶大な信頼を得た。
やがて吹子は丹山家を出て大学に通い始めた。その最初の夏休み、帰省した吹子の前に大事件が起きた。勘当されていた吹子の兄の宗太が、猟銃を持って丹山家に押し入ったのだ…

四枚のカード    
乾くるみ
事件が起きたのは富嶽大学理学部化学科の実験棟の小山田教授の研究室。年度末休暇のその日は、小山田教授の化学の補習があって6人の学生が登校していた。まさに補習が始まろうとするときに、モントリオールのトルソーという大学教授が小山田教授を訪ねて来た。
トルソーは補習が行われると知ると、教授と6人の生徒にESPカードを使って超能力の実演をした。実演は30分ほどで終わり、皆はトルソーの超能力に感心。トルソーは小山田の実験室でデータを調べ始めた。
一方、6人の生徒達はめいめい自習室をあてがわれて課題に取り組み、30分交替で会議室に呼ばれ小山田の指導を受けた。この補習の開始が2時。それから2時間後の4時に小山田が、学生の一人と実験室に入ると、そこには絶命したトルソーが倒れていた。トルソーの手には先ほど実験に使ったESPカードの切れ端が握られていた。

見えないダイイングメッセージ    
北山猛邦
名探偵音野順のところに笹川晃と名乗る男が依頼に来た。晃の父親は発明家であり事業家でもあるが、自宅で強盗に襲われて殺された。強盗は何も奪わずに逃げたが、いまだ検挙されていなかった。
その晃の依頼は、父の死で開かなくなった部屋の金庫を開けること。金庫はオーダーメードの暗証番号式であったが、暗証番号は父親しか知らないという。
金庫を製造した会社はすでに倒産して無くなっていた。開錠の専門業者はオーダーメードの為に暗証の桁数すらわからないといい、永遠に開かなくなるリスクを承知で錠を壊すしか開ける手はないという。
晃は錠を壊すのは最後の手段にし、名探偵に相談することにしたのだった。手がかりとしてあるのは、晃の父が死に際に室内を写したポラロイド写真のみ。その写真も何の変哲も無いものであった。


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